インド科学技術省(MoST)は6月17日、傘下のナノ科学技術研究所(INST)が主体となり、がんの光熱療法に有用なナノカップ構造のPEG化セミシェル(SS)を、室温で簡便に合成する新手法を開発したと発表した。研究成果は学術誌Communication Chemistryに掲載された。
Illustration of semi-shell formation using rhombic dodecahedron (RD) shaped ZIF-8 as a sacrificial template and its PEGylation-assisted blood compatibility, cryopreservation, systemic safety and on-demand reconstitution towards pronounced photothermal therapy of advanced cancer.
(出典:PIB)
従来、ナノカップ形状SSの製造には多段階の工程や高温での強力なフッ化水素酸の使用が必要で、安全性や作業負担に課題があった。今回の研究では、INSTが、タタ記念センターがん治療研究教育先端センター(ACTREC)、インド工科大学ボンベイ校(IIT-B)と共同で、室温下で簡便に合成できる1ステップのコロイド法を確立した。
本手法では、生体適合性を持つ金属有機構造体(MOF)であるZIF-8をテンプレートとして用い、アスコルビン酸(ビタミンC)などの穏やかな還元剤により、ZIF-8をエッチング(溶解)しながら金ナノ粒子を形成する。このプロセスにより、近赤外領域で高い光吸収と散乱性能を示すSSが得られた。特殊な装置を必要とせず、従来の工程に比べて安全性と再現性に優れている。
得られたSSは、ポリエチレングリコール(PEG)で表面処理することで凍結保存性、水溶性、血液適合性が向上し、長期間の保存や静脈内投与に適する形状となった。研究では、PEG化SSが無毒であること、優れた光熱変換効率を有すること、ならびに乳がんの転移モデルにおいて顕著な治療効果を示すことが確認された。
ナノカップを用いた光熱療法により、モデルマウスでは生存率が向上し、腫瘍の再発も最小限に抑えられた。研究チームは今後、化学療法と光熱療法の併用や、SSの光学特性を活かした表面増強ラマン分光法(SERS)によるバイオセンシング応用も視野に入れている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部