2025年07月
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電子機器の設計に革命をもたらす可能性を持つ磁性材料を発見 インド

インド科学技術省(MoST)は6月30日、科学技術庁(DST)傘下のS.N.ボーズ国立基礎科学センター(SNBNCBS)の研究者らが、交代磁性体であるクロムアンチモン(CrSb)において、方向によって電子と正孔が使い分けられる新たな輸送現象を発見し、将来の電子機器の設計に革命をもたらす可能性があると発表した。研究成果は学術誌Advanced Scienceに掲載された。

The electrical conduction in altermagnet CrSb occurs through holes and electrons along the long and the short axis, respectively.
(出典:PIB)

本研究で注目されたCrSbは、通常の磁石のような強磁性体と自身の磁性を打ち消す反強磁性体の特性を併せ持つ交代磁性体と呼ばれる磁性材料だ。CrSbは室温の2倍以上まで磁気秩序を維持し、室温の30倍以上でも交代磁性スピン分裂を有するなど、スピントロニクス分野における実用化が期待されている。

研究チームは高品質な単結晶CrSbを用い、電流の流れる方向によってキャリアが変化する現象を観測した。結晶層内方向では電子(n型材料の特徴)によって、層間方向では正孔(p型材料の特徴)によって電流が運ばれる。このような方向依存伝導極性(DDCP)は極めて稀な性質であり、CrSbはこの特性を示す初の交代磁性体だ。

従来のデバイスはp型・n型それぞれの材料を組み合わせて機能していたが、CrSbのように単一材料で両特性を備えることにより、ヘテロ構造やドーピングを不要とし、デバイス構造の大幅な簡素化や小型化、製造コストの低減が期待される。

さらに、CrSbは無毒かつ地球上に豊富な元素で構成されており、環境にやさしい次世代電子材料としても注目される。交代磁性とDDCPの融合により、電気的および磁気的性質を制御可能な新しいスピントロニクスデバイスの開発に向けた基盤技術となることが期待される。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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