インド科学技術省(MoST)は11月14日、傘下の独立研究機関であるインド宇宙物理学研究所(IIA)の研究チームが、リチウムに富む赤色巨星とヘリウム存在量の増加に相関があることを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Astrophysical Journalに掲載された。

図1. ヘリウム増加(He/H > 0.1)星におけるMgHバンドの観測スペクトルと合成スペクトル
研究チームは、ハンレ(ラダック地方)のヒマラヤ・チャンドラ望遠鏡をはじめとする高解像度スペクトル観測データを用い、表面温度が低くヘリウムの観測が困難な恒星に対して、水素存在量の変化からヘリウム存在量を推定する手法を適用した。マグネシウムの原子線と分子線(MgH)の差異を比較し、水素の標準値からの逸脱を捉えることでヘリウムの増減を導いたもので、同手法は太陽の解析にも用いられた。

図2.リチウム豊富な恒星群におけるリチウムの対数ε値と(He/H)の相関関係を示す。青の四角は通常のHe/H比(He/H = 0.1)を持つ恒星、赤の丸はヘリウム豊富な恒星(He/H > 0.1)を示す
(出典:いずれもPIB)
解析対象は赤色巨星18個と超巨星2個の計20個で、有効温度、表面重力、23種類の元素存在比が算出された。MgH線とMg I線から得られるマグネシウム存在比が一致するよう構築されたモデル大気を利用し、恒星ごとの水素とヘリウム比(He/H比)を推定した。その結果、6個の恒星でHe/H比が標準値0.1を超えるヘリウム増加が確認され、内訳は赤色巨星5個と超巨星1個だった。
筆頭著者であるB・P・ヘマ(B. P. Hema)氏は、ヘリウム増加が確認された赤色巨星がいずれも高いリチウム存在量を示したと述べた。一方で、リチウムが高くても必ずしもヘリウム増加が見られるわけではなく、光球面における両者の関係が恒星進化の段階とともに多様であることが示された。共著者のガジェンドラ・パンディ(Gajendra Pandey)教授は、この結果が研究チームの想定と整合するものだと説明している。
本研究は、通常の巨星およびリチウム豊富な巨星において光球面ヘリウム存在量を分光学的に測定した初めての例であり、ヘリウム増加が赤色巨星のさまざまな進化段階で観測された点が特徴だとされる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部