インドの気候・エネルギー計画モデルは、開発の実情や地域格差、制度的制約を十分に反映しておらず、同国の2070年ネットゼロ目標に向けた政策判断を損なう恐れがあることが、133件の気候モデリング研究を検証した新たなレビューで明らかになった。科学誌nature indiaが5月26日に伝えた。
報告書 India Climate and Energy Frontiers は、エネルギーシステムモデル(ESM)、応用一般均衡モデル(CGE)、統合評価モデル(IAM)を対象とし、CEPT大学、インド理科大学院ベンガルール校、インド工科大5校、エネルギー資源研究所(TERI)などの研究者350人との協議に基づく。多くのモデルは、経済成長と排出削減のトレードオフや、公平性、非公式経済、行動変容を十分に組み込んでいないという。
排出に焦点を当てた研究の最大99%がモデル化データを用いる一方、健康、雇用、エネルギーアクセスを扱う研究では半数未満にとどまる。この差を埋め、インド固有のモデルや、開発成果と緩和策を統合する枠組み、行動・制度の動態を捉えるエージェントベース手法を整えれば、地域ごとの雇用増減や食料不安リスク、国のエネルギー政策が地域財政に及ぼす影響を予測できる。
課題は、断片化し利用しにくいデータ環境にもある。インド工科大学ボンベイ校(IIT-B)のスビマル・ゴーシュ(Subimal Ghosh)氏は、河川流量、貯水池運用、灌漑放流、気象観測、レーダーなどの水関連データが欠落または利用不能だと指摘する。構想されている国家デジタルツインは、水管理や気候リスク分析を改善し得るが、農村部や未観測流域では地上センサーが少なく、衛星観測が不可欠になる。
タイのアジア工科大学院(AIT)の環境経済学者ジョヤシュリー・ロイ(Joyashree Roy)氏は、南・東南アジアの分析は広がる一方、電力部門や太陽光、風力、水力、バイオマスに偏り、長期間貯蔵、炭素除去技術、需要側の柔軟性、地域間電力取引が見落とされていると述べる。インド工科大学カーンプル校(IIT-K)のアシシュ・ガルグ(Ashish Garg)氏は、インドは太陽電池モジュール生産で世界2位だが、セルやウエハーの大半を含む部品の80%超を主に中国から輸入しているとして、「課題の大部分は、単なる資金ではなく構造的なものです」と指摘した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部