インド工科大学マドラス校(IIT-M)は7月7日、同大学の機械工学科の研究者らが、脳組織を引っ張った場合と圧縮した場合に生じる力学的応答の違いを、従来より少ないパラメーターで正確に再現するとともに、時間依存性やエネルギー散逸も表現できる新たな構成モデルを開発したと発表した。研究成果は学術誌International Journal of Engineering Scienceに掲載された。
脳組織は、輪ゴムのように元に戻る弾性と、蜂蜜のように時間とともに変形する粘性を併せ持つ非線形の粘弾性材料である。また、引張時と圧縮時で応答が異なり、せん断剛性は引張状態より圧縮状態の方が高い。この引張―圧縮非対称性は、事前に伸ばした状態によってせん断応答が変わる形でも現れるが、既存モデルで顕著な非対称性を正確に表すことは難しかった。
IIT-M機械工学科のマニ・レディパガ(Mani Reddipaga)氏と、同学科およびソフト・生体マターセンター(CSBM)のクリシュナ・カンナン(Krishna Kannan)教授は、引張―圧縮非対称性を明示的に組み込み、弾性材料が物理的に妥当な応答を示すための条件であるBaker-Ericksen不等式を満たすモデルを構築した。従来、脳の非対称性を最もよく表すとされた2パラメーターのオグデン(Ogden)モデルでは、高い圧縮領域で非対称性の指標が一方向に増え続ける。一方、実験データでは値に上限があり、提案モデルはこの挙動を正しく予測した。
研究チームはさらに、故K・R・ラジャゴパル(K. R. Rajagopal) 教授が提案した熱力学的枠組みに基づき、大きな変形に対応する粘弾性モデルを開発した。弾性的変形を表す蓄積エネルギーと散逸率から支配方程式を導き、熱力学第二法則を満たすようエネルギー散逸が常に非負となる形でモデルを構築した。
提案モデルは、Buddayらが2017年に報告した実験データを、Budday-Ogdenモデルより少ないパラメーターで良好に再現した。インド理科大学院(IISc)機械工学科のナムラタ・グンディア(Namrata Gundiah)教授は、応力緩和やヒステリシス、変形速度依存性も表現でき、外傷性脳損傷の研究や手術法の設計、生体力学、神経科学、計算モデリングに有用だと評価した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部