インド科学技術省(MoST)は8月31日、同省科学技術局(DST)傘下のジャワハルラール・ネルー先端科学研究センター(JNCASR)と、オーストラリアのシドニー大学、インド理科大学院(IISc)の研究者らが、結晶性半導体で従来知られていた上限を約100倍上回るゼーベック係数を実現したと発表した。研究成果は学術誌Scienceに掲載された。
ゼーベック効果は、異なる2種類の材料の接合部に温度差を与えると、電荷キャリアが高温側から低温側へ移動して電圧が生じる現象である。結晶性固体のゼーベック係数は数mV/Kが上限とされてきたが、研究チームは液体電解質やイオンゲルに匹敵する大きさを固体で実現した。
JNCASRのビバス・サハ(Bivas Saha)教授が率いるチームには、レヌカ・カランジェ(Renuka Karanje)氏、ディーマヒ・ラオ(Dheemahi Rao)氏、ディクシャ・ダディッチ(Diksha Dadhich)氏、サウラブ・ルドラ(Sourav Rudra)氏、シドニー大学のアシャラタ・インディラデビ・カマラサナン・ピライ(Ashalatha Indiradevi Kamalasanan Pillai)氏とマグナス・ガーブレヒト(Magnus Garbrecht)博士、IIScのスブロト・ムカジー(Subroto Mukerjee)教授が参加した。チームは、超高真空マグネトロンスパッタリング法で酸化マグネシウム基板上に窒化スカンジウム(ScN)薄膜を成長させ、マグネシウムを添加して、酸素ドーパント(材料に添加された酸素原子)によって自然に生じる自由電子を補償した。得られた高濃度ドープ・高補償(HDHC)半導体では、正負に帯電したドーパント原子がほぼ同数、結晶内にランダムに分布する。
厚さ約200nmのHDHC ScN薄膜では、室温付近でゼーベック係数が−124.6mV/Kを超え、無機半導体で一般的に見られる値の数百~1000倍以上となった。薄膜を薄くするほど効果は強まった。さらに、2つのクロム電極を備えた光子センサーの試作機では、一方の電極へのレーザー照射による局所的な温度差から−102.4mV/Kの応答を得た。応答は高速で、照射を繰り返しても再現性があり、材料は変化しなかった。チームは、さらに最適化すれば室温付近で単一光子レベルを検出できる可能性もあるとしており、温度・光子検出用の熱電薄膜材料とセンサーについてインドで特許を出願した。

ボルツマン限界を超えるゼーベック係数を示す高濃度ドープ・高補償ScNの電子バンド図の模式図

JNCASRの研究チーム。左から、ビバス・サハ(Bivas Saha)教授、サウラブ・ルドラ(Sourav Rudra)氏、ディクシャ・ダディッチ(Diksha Dadhich)氏、レヌカ・カランジェ(Renuka Karanje)氏、ディーマヒ・ラオ(Dheemahi Rao)氏
(出典:いずれもPIB)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部