情報通信分野が電気電子を抜き初めて1位に 韓国、技術貿易統計(2020年)公表

2022年03月30日

林 茂根 (YIM MOOKEUN)

林 茂根(YIM MOOKEUN):
(韓国研究財団 日本事務所 所長)

<略歴>

1976年韓国ソウル生まれ、韓国 延世大学校卒業、同大学院修了。
2006年韓国学術振興財団(KRF)入り。2009年韓国研究財団(NRF)に改組。
2020年11月から韓国研究財団 日本事務所長に就任。

韓国の科学技術情報通信部は2022年1月末、2020年基準(最新)韓国の技術貿易統計を発表した。技術貿易は、技術に関連した国家間の商業的取引を指す言葉であり、技術の流れと技術・産業構造の変化を測定する指標として活用されている。発表資料によると、韓国の技術貿易の全体規模は298億7,800万ドル(約3兆5000万円)であり、そのうち技術輸出が127億8,000万ドル、技術導入が170億9,800万ドルであることが分かった。

この技術貿易規模は、2019年比5.5%(316.5億ドル)減少し、技術貿易収支比(技術輸出を技術導入で割ったものであり、これは一国の技術競争力を評価する際に使用され、数値と技術競争力は比例する。すなわち、数値が高いほど技術競争力が高いことを意味する)も、2019年比0.02ポイント下落した。科学技術情報通信部は、このような原因をコロナ禍による世界経済貿易規模の萎縮による結果と分析している。

《 韓国の技術貿易推移(2007~2020) 》

 

一方、今回の技術貿易統計で明らかになった最も目立った特徴は、情報通信分野の規模が電気電子分野を初めて上回ったことである。情報通信分野は、126億6,900万ドルで、2003年以来連続1位だった電気電子分野(91億4,300万ドル)を初めて上回った。情報通信分野の技術導入額は、対前年比29.5%増だったが、電気電子分野の技術導入額は、むしろ29.0%減となり、両産業の技術貿易規模の順位の変化に影響を与えている。技術輸出額の変動よりは、技術導入額の変動によって順位が変わった点も注目に値する。それだけ、世界的に情報通信分野の技術変化が急速に進んでおり、6G技術をリードしていくための動きが激しくなっているものと考えられる。

発表によると、建設と技術サービス分野を除くすべての産業分野において、技術貿易赤字を記録しているが、素材産業分野は技術貿易収支比が大幅に改善(0.05→0.25)された産業分野となった。具体的には、素材産業分野の中小企業の技術輸出額が大幅に増加(212.6%)し、素材産業分野の全技術輸出額は、対前年比2倍以上増加(13百万ドル→27百万ドル)し、素材産業分野の技術導入額も60%以上減少(284百万ドル→109百万ドル)して、技術貿易収支比の改善に直接的な影響を及ぼしている。これは、日韓の貿易問題の発生をきっかけに素材・部品・装置産業分野に対して韓国政府が集中的な研究開発投資および関連企業の育成を実施した結果とみられる。

《産業別技術貿易の現況》

 

機関類型別に見ると、大企業の技術輸出額と導入額がいずれも減少し、韓国の技術貿易規模の減少に直接的な影響を与えたことが分かった。技術輸出額の規模は、大企業(55億8千5百万ドル、43.7%)、中小企業(37億1千7百万ドル、29.1%)、中堅企業(33億3千6百万ドル、26.1%)の順であり、大企業と中堅企業の技術輸出額は前年の2019年に比べて減少したのに対し、中小企業の技術輸出額は小幅増加している。技術導入額の規模は、大企業(76億8千7百万ドル、45.0%)、中小企業(47億3百万ドル、27.5%)、中堅企業(46億7百万ドル、26.9%)の順であり、前年に比べて大企業の技術導入額は24%程度減少したが、中堅企業と中小企業の技術導入額は20%以上増加していることが明らかになり、相反する様相を呈した。

《企業類型別技術貿易の現況》
区分 `19年度 `20年度 増減額(前年比)
技術輸出 技術導入 技術輸出 技術導入 技術輸出 技術導入
大企業 6,424.310,115.9 5,585.1 7,687.0 -839.2 -2,428.9
中堅企業 3,471.8 3,707.2 3,336.3 4,606.8 -135.5 899.6
中小企業 3,679.4 3,918.1 3,717.3 4,703.0 37.9 784.9

国別に見ると、韓国の技術輸出1位国は中国であり、世界最高水準の技術保有国である米国との技術貿易収支と収支比も持続的に改善されていることが判明した。具体的には、韓国のコンテンツ産業分野の活躍により、中国向け技術輸出が対前年比17.3%増加し、2020年に中国が米国を抜いて韓国の技術輸出1位国に浮上した。米国からの技術導入が前年18.3%減少し、米国に対する技術貿易収支が改善され、収支比も3年連続上昇した。

《韓国の技術貿易(輸出および導入)規模上位10カ国(2020年)》
順位 国名 技術輸出 技術導入 技術貿易
規模
貿易収支 貿易
収支比
金額 企業数 契約
件数
金額 企業数 契約
件数
1 米国 2,553 1,204 10,290 5,876 1,812 9,078 8,430 -3,3230.43
(20.0) (16.9) (21.9) (34.4) (23.4) (29.8) (28.2)
2 シンガポール 1,034 458 7,453 2,954 -135.5 3461,256 -1,920 0.35
(8.1) (6.4) (15.9) (17.3) (4.5) (4.1) (13.3)
3 中国 3,008 672 4,007 636 661 3,075 3,644 2,372 4.73
(23.5) (9.4) (8.5) (3.7) (8.5) (10.1) (12.2)
4 イギリス 1,147 518 3,617 1,628 538 2,055 2,775 -482 0.70
(9.0) (7.3) (7.7) (9.5) (7.0) (6.7) (9.3)
5 ベトナム 1,811 296 1,177 39 185 745 1,849 1,772 46.99
(14.2) (4.2) (2.5) (0.2) (2.4) (2.4) (6.2)
6 アイルランド 123 130 919 1,506 106 402 1,628 -1,383 0.08
(1.0) (1.8) (2.0) (8.8) (1.4) (1.3) (5.5)
7 日本 489 899 5,414 850 770 3,361 1,339 -361 0.58
(3.8) (12.6) (11.5) (5.0) (10.0) (11.0) (4.5)
8 ドイツ 136 233 1,611 703 426 1,650 839 -567 0.19
(1.1) (3.3) (3.4) (4.1) (5.5) (5.4) (2.8)
9 インド 407 121 499 217 136 513 624 191 1.88
(3.2) (1.7) (1.1) (1.3) (1.8) (1.7) (2.1)
10 フランス 23 104 309 452 290 931 474 -429 0.05
(0.2) (1.5) (0.7) (2.6) (3.7) (3.1) (1.6)
10カ国合計 10,730 4,635 35,296 14,860 5,270 23,066 25,560 -4,129 0.72
(84.0) (65.1) (75.1) (86.9) (68.1) (75.6) (85.6)

韓国の技術貿易規模と収支比はこれまで持続的に拡大・改善されてきたが、2020年に技術貿易規模が減少(対前年比5.5%↓)し、技術貿易収支比も対前年比0.02ポイント下落した。これは冒頭で述べたように、コロナ禍によって世界経済貿易規模が萎縮したことによるものと科学技術情報通信部は判断している。コロナが世界経済貿易規模に及ぼした影響を見ると、2020年の世界商品取引量は対前年比5.3%減少し、世界実質GDP(国内総生産)は3.6%下落した。

まとめると、2020年の韓国技術貿易統計で現れた顕著な特徴は、

  • 規模の面で情報通信分野が初めて1位となった
  • 建設技術サービス分野を除くすべての産業分野で技術赤字が記録されたが、貿易紛争を契機に韓国政府の積極的な投資と育成を基盤として、素材産業分野の技術輸出が対前年比2倍以上増加した
  • 技術輸出対象国はこれまで米国が1位だったが、2020年には初めて中国が1位(技術貿易の全体規模は依然として米国が1位)となった

―点が挙げられる。

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