第4次産業革命時代における韓国の科学技術―②第4次産業革命時代を勝ち抜くための戦略~制度・政策編~

2022年11月18日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈

今回からは、韓国政府が前回のコラムで述べた課題を乗り越え、第4次産業革命時代を勝ち抜くために、どのような工夫を行ってきたのかを述べていく。制度・政策上の調整、新産業育成、基礎研究の強化、人材育成等にわけ、展開してきた事業や進めてきた政策を紹介する。

まず、第4次産業革命時代を迎えるため行ってきた法律・政策の調整、新制度の導入について触れていく。韓国は、「D・N・A(Data、Network、AI)」を中心とする強い科学技術基盤を作ることを、第4次産業革命の重点任務としているため、データ、ネットワーク、人工知能を中心に法律・政策の調整を行ってきた。

1.データ3法の改正

通称「データ3法」と呼ばれる「信用情報の利用と保護に関する法律(信用情報法)」、「個人情報保護法」、「情報通信ネットワーク利用促進及び情報保護などに関する法律(情報通信ネットワーク法)」の改正が、法律制度の改善においては、もっとも重要な取り組みである。

データ3法を改正した理由は、一言で言うと、データ3法の所管省庁が分かれている関係で発生する重複規制問題を改善し、企業が活用できるデータの幅を広げるためである。

情報化革命と技術の融合・複合革命に伴いデータとIT産業の重要性が日々高まっているなか、データは、産業を問わず、グローバル企業のパラダイムを変化させる存在となっている。そのため、データの活性化を通じた新産業の育成は第4次産業革命を主要任務となった。

2020年より実施されている新データ3法の主な改正内容は、以下4つである。

  1. ・ 「仮名情報」の概念が新たに導入された。仮名情報とは、個人を特定・識別できないように措置を加えた情報で、特定個人を識別できる個人情報と、非識別措置が加えられた匿名情報の間に該当するものである。商業性目的を含む統計の作成、産業目的を含む諸研究、公益のための記録の保存に使用するなら、金融機関などは本人の同意なしで仮名情報を使用できる。
  2. ・ 個人情報に関わる類似・重複している法律を個人情報保護法に一本化し、規制・監督機関も個人情報保護委員会に統一した。
  3. ・ 銀行、保険会社、クレジットカード会社などに散在されている個人の信用情報を消費者がアプリ一つで確認・管理できる「マイデータ1」が導入された。
  4. ・ データ活用に伴う個人情報処理者の責任を強化した(売上高の3%まで罰金として課すことができる)。

2.サンドボックス制度の導入

2019年より実施しはじめた規制サンドボックス制度2というのは、一定条件(期間・場所・規模に制限あり)が設けられるものの、事業者が新技術を用いて提供する新しい製品やサービスが、現行の全てまたは一部の規制を受けずに、優先的に市場で検証を受けられる制度である。端的に言えば「イノベーションの実験場所」であり、アイディアを有している事業者が自由にチャレンジできる機会が賦与される制度である。第4次産業革命では、急速な技術の発展と融合が行われ、既存の規制が新技術や新産業の変化をタイムリーに反映できないとの課題が生じ、政府は、新技術や新産業について「先許可―後規制」を行うサンドボックス制度を導入した。

韓国が取り組んでいるサンドボックス制度は金融分野のみならず、実物経済(ICTや産業)などでも運営されており、以下3つの類型が存在する。

  1. ・ 実証特例制度:新技術を活用した事業を許可したいが法律根拠が存在しない、または、既存の法律を適用すると他の法律と抵触する可能性がある場合、一定期間のテスト運営を可能にする制度である。実証の結果、規制改善の必要性が認められるのであれば、関連法令を整えていく。この制度による猶予期間は最大4年(2年+2年)である。
  2. ・ 臨時許可制度:安全性、イノベーション性が検証されている商品・サービスであるにもかかわらず、関連法令の曖昧さにより市場進出が難しい場合、一定期間規制を適用しない(臨時的に許可する)ことである。こちらも最大4年である(2年+2年)
  3. ・迅速確認:新技術を活用した事業を展開したい企業が、規制の有無を確認したい場合、確認申請を行えば、関連省庁は、30日以内に返答する義務がある。返答がない場合は、規制なしとみなす。

3.ネットワーク:5G商用化に向けての準備

韓国は、1996年に世界初CDMAの商用化を実現し、1998年には世界初の超高速インタネット商用化を実現した。ICT強国である韓国は、5Gについても積極的に取り組んだ。5Gは、膨大なデータを超高速に転送して繋げる第4次産業革命の核心インフラであり、音声やデータ通信の先にある繋がる社会を実現し、融合サービスと先端端末・デバイスなどの新産業の創出も可能にしている。韓国政府は、5G技術を多様な産業に活用し、川上・川下産業を促すことができれば、2026年まで1,161兆ウォン規模の経済価値の創出が可能であると予測した。

2017年12月から、政府は5G商用化ロードマップを提示し、着々と準備を進めてきた。

  1. ・ 平昌オリンピックでのプレ運営(2018年2月)
  2. ・ 周波数オークション(2018年6月)
  3. ・ 無線設備の技術基準を設定(2018年8月)
  4. ・ 基地局・端末電波認証(2018年10~11月)
  5. ・ サービス利用約款申告(2018年11月)
  6. ・ 5G電波発射(2018年12月)

そして、2019年4月3日、ついに、世界初となるスマートフォン基盤の5G商用化が実現した。 5G商用化の実現後は、省庁・民間専門家がメンバーとなる「5G+戦略委員会」を構成し、2019年4月「イノベーション成長を実現するための5G+戦略」を制定した。5G+戦略事業には、10大核心産業と5大核心サービスが含まれる。

  1. ・ 10大核心産業:知能型CCTV、VRとARデバイス、次世代スマートフォン、ネットワーク設備、エッジコンピューティング、情報セキュリティ、5G V2X、コネクテッドロボット、未来型ドローン、ウェアラブルデバイス
  2. ・ 5大サービス:デジタルヘルスケア、スマートファム、自動運転、スマートシティ、体験型コンテンツ

4.人工知能国家戦略

人工知能は、言うまでもなく第4次産業革命をリードする動力であり、単なる新技術というより、産業や社会の構造に大きな変化をもたらす存在であり、韓国政府は、2019年12月「人工知能国家戦略」を公開した。人工知能は経済・社会全般のイノベーションに繋がるとし、すべての省庁が当該戦略の制定に参加した。選択と集中で強みを生かせる分野に投資を絞ると同時に、「人間中心の人工知能の実現」というモティーフが表れているのが特徴である。

メモリー半導体での強みを生かして人工知能半導体競争力世界1位を目指すのが本戦略の目標であり、そのため、PIM(Processing-In-Memory)半導体3の開発に投資を強化するとした。また、子供からシニアに至るまでのすべての人が、ソフトウェアと人工知能に楽しく接することができるよう教育体系を整え、政府も電子政府にとどまらず、人工知能を活用した智能型政府に変換するとした。さらには、人工知能時代において、提起されている倫理問題に対応するため、2020年12月「人工知能倫理基準」を制定し、人工知能の開発から活用に至る全プロセスにおいて、ヒューマニティの実現を最高価値にし、①人間の尊厳を尊重、②社会公共利益を優先する、③技術開発の目的の合理性を重視する、ことを3大原則とした。また倫理規定と同時に、「人工知能法律・制度・規制整備のロードマップ」も公開し、これから人工知能時代を迎えるために必要な法律・規制の整備を2023年あたりまで順次行っていくとした。

以上、第4次産業革命時代に向けての政策・制度面の取り組みについて述べてきた。

政策の制定が経済発展を保障するわけではないが、順調な発展を支える重要な存在であることには間違いない。特に、第4次産業革命時代は、新技術や新産業の急速な変化が特徴の一つであり、それを支える適切な規制がない場合、発展の妨げになるほか、新旧産業のトラブルを引き起こす可能性もあり、政府のタイムリーな対応と適切な政策の打ち出しが何より大事である。