2023年4月28日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー松田侑奈
韓国の尹錫悦大統領は4月14日、デジタルプラットフォーム政府の実現にむけた報告会を開催した。政権交代に伴い、尹政権では昨年9月、デジタルプラットフォーム政府委員会を立ち上げた。今回は同委員会立ち上げ後、初の報告会となった。
尹大統領は、「政府が過去30年推進してきた電子政府と、今回のデジタルプラットフォーム政府は完全に次元が違うものである。デジタルプラットフォーム政府は、AIを基盤に各省庁に分散されている情報を1つのプラットフォームに統合し、省庁だけでなく、民間でも情報を有効的に活用ができるようにする国家戦略産業である」と表明した。
尹大統領は大統領選挙時から、1つに統合されるデジタルプラットフォーム政府の重要性を強調してきた。デジタルプラットフォーム政府は、各種行政サービスの利便性や効率性を革命的に引き上げるだけでなく、縦割り行政を抜本的に変えることができ、働き方改革にもつながるという。また、各省庁の情報が共有・融合される際の相乗効果は大きく、その勢いで各産業でも融合が実現され、人材育成・雇用拡大にもつながるとした。
尹大統領は今回の報告会で次のように述べた。
「電子政府の推進で、多くの成果を生み出し、評価すべきであるが、時代は変わりつつあり、国民や社会の期待を応えるには、デジタルプラットフォーム政府が必要である。政府が1つのプラットフォームとしてデジタル化されると、事業推進の際に、政治要素の影響を受けるリスクがない」
「さらには、社会が直面している各種課題を、データを基盤に、科学的に解決することができる。今は、各省庁が縦割りとなっている関係で、世界トップレベルのデータベースが構築されているにも関わらず、情報共有や協力が難航している。グローバル趨勢からしても、このような状況は変えないといけない。これから専門家、各省庁の関係者とともにデジタルプラットフォーム政府を推進していくが、多くの難題に直面するかもしれない。でも、国の未来のため、しっかりその基盤を作っていきたい」
実際、デジタルプラットフォーム政府が本格的に機能し始めると、最低でも以下の効果が得られると思われる。
デジタルプラットフォーム委員会の委員長は同日、最初に取り組む予定は、税金・年金関係の情報の統合であり、これからID1つで関連サービスを全て確認できるとした。また、2026年まで現存の1500以上の行政サービスの連携・統合を終了させるとした。さらに、個々人の状況に合わせ受けられる各種サービスについてAIが教える「特典アラート」サービスを開始する。中央省庁で提供する各種サービスや特典の数は1000件以上になる。ただ、情報が足りないため、または存在自体を知らなくて、あるいは手続きが複雑で断念した人が多く、そのような事態を改善するために始めた取り組みである。同委員長は、「デジタルプラットフォーム政府は、AIとデータを基盤に政府と民間の協力で作りあげるものである。韓国は、世界のモデルケースになりたく、その偉大のチャレンジの第一歩を踏み出した」とコメントした。
韓国は国連の電子政府ランキングで、毎年トップを争うほど、電子政府が進んでいる国家である。ただ、膨大なデータベースや電子化の推進に比べ、省庁間の連携が乏しく、民間でのデータの活用も不十分であると指摘され続けた。データの活用に向け、政府は2020年にデータ関連の法律を改正し1、民間でもデータが活用しやすくなった。今回のデジタルプラットフォーム政府は縦割り行政の改革とデータの活用を一体化したものであり、抜本的な改革とも言える。韓国政府は、電子政府へのシフトに成功した経験を生かして、デジタルプラットフォーム政府を実現できるのか。尹政権のこれからの歩みに期待が高まる。
参考資料:
① 政策ブリーフィング:「尹大統領、デジタルプラットフォーム政府の実現で国民に必要な情報をタイムリーに提供」
https://www.korea.kr/news/policyNewsView.do?newsId=148913887&pWise=mostViewNewsSub&pWiseSub=B5
② 政策ブリーフィング:「税金、年金等のサービスを一か所に、デジタルプラットフォーム政府本格始動」
https://www.korea.kr/news/policyNewsView.do?newsId=148913884&pWise=sub&pWiseSub=I1