【調査報告書】『韓国の科学技術人材育成・確保に関する調査』

2023年6月6日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『韓国の科学技術人材育成・確保に関する調査』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy22_rr05

エグゼクティブ・サマリー

韓国は、憲法127条で国家が科学技術のイノベーションに努める義務を定めるほど科学技術に対する関心度が高く、科学技術をとても重視する国である。5年に1度、「科学技術基本計画」のほか、「科学技術人材育成・支援基本計画」も制定している。これらの基本計画は、おおむね任期5年の大統領の政権交代と連動することとなり、科学技術における目標やビジョン、5年間注力する科学技術分野、育成・確保したい科学技術人材像ならびにそれに向けた戦略等が記載されている。

韓国のように科学技術人材分野に絞って、長期的視点から人材育成計画を定期的に制定する国は、実に数少なく、具体的な目標と戦略の提示で、近年目覚ましい発展を成し遂げている。

2021年においては、韓国の研究開発費は世界5位、研究開発費をGDPで占める割合が世界2位、経済活動人材1,000人あたりの研究者1数は世界1位である2

本稿は、韓国が科学技術人材を育成・確保するため、どのような政策を打ち出し、いかなる事業を展開してきたのかを明らかにし、それが日本に与える示唆を分析することを目的としている。

上記のミッションをクリアにするため、5章構成としており、その内容は以下のとおりである。

第1章では、本調査研究の背景と目的、調査方法について示している。ここでは特に、日本が参考となる調査を効果的に実施する観点から、調査にあたって留意すべき点として、まず、日本の科学技術人材育成・確保の概況と課題を整理している。

第2章では、韓国の研究力を各種指標とともに紹介し、韓国の科学技術が現在どのレベルに達しているのかを分析している。ここでは、研究開発費、研究者数、論文数などの典型的な指標以外にも、大学ランキング、IMD頭脳流出ランキングなど、国家の科学技術競争力をあらわす指標を合わせて紹介することで、韓国の科学技術力を総合的に分析している。

続く第3章では、韓国が科学技術人材を育成・確保するため、展開してきた政策や実施してきた主な事業について述べている。政策に関しては、「科学技術人材育成・支援基本計画」を主柱に、若手人材育成戦略や優秀人材誘致戦略等について触れている。人材育成のための事業は、具体的な成功事例を挙げつつ、研究者の国内育成、海外育成、女性研究者への支援、外国人研究者の誘致、外国人留学生誘致等に分類し、詳細に示している。

第4章では、韓国ならではの科学技術人材育成・確保の特色と、日本が科学技術人材育成・確保を進めるうえで参考すべき内容を示している。

韓国の科学技術人材育成・確保の特色としては、次の4点である。

まずは、英才教育への注力であるが、小中高生がデジタルや科学技術に自然となじむように学校の環境やインフラの整備に力を入れている。そして、若手人材がキャリアにつくまで分厚く支援している。ポスドク研究者の支援プログラムの増加はもちろん、博士課程の卒業生が卒業後すぐ職につかなくても、継続研究ができるよう多方面での支援を展開している。また、科学技術人材にフォーカスしたプラットフォームが充実しており、人材育成の視点からの科学と社会のリンクも重視している。

日本が科学技術人材育成・確保を進めるうえで参考すべき事項としては、次の5点を掲げている。

1点目は、科学技術や R&D事業、人材育成へ継続的に安定して拡充する投資である。韓国の2021年研究開発費は102兆ウォンを超えている。総額ではまだ日本に及ばないものの、1963年の12億ウォンから増え続けている。また、研究開発費だけでなく、研究者の数も増加傾向にあり、人口1,000人あたりの研究者数は世界最多である。

2点目は、科学技術特化大学の発展である。研究中心大学であるこれらの大学では、学部生、院生問わず、恵まれた環境で研究ができており、英語授業の義務化により、グローバル競争力も高まっている。

3点目は、実務人材の育成を通じ、博士・ポスドクのポスト不足を解決していることである。韓国では、大学と企業が連携して契約学科を設立しており、これにより入学と同時に就職問題が解決できるとともに、博士・ポスドク人材の企業での活躍に繋がっている。

4点目は、女性研究者支援の拡充と女性研究者割合の増加である。韓国では、5年に一度、女性科学者育成支援基本計画を制定しているだけでなく、科学技術情報通信部傘下に大型支援機関である女性科学技術育成財団(WISET)を設置し、女性研究者への支援を強化している。

5点目は、海外の優秀人材と留学生へのサポートを強化していることである。海外の優秀な人材を確保するため、研究や生活面で分厚い支援を提供し、ビザ制度も大きく改善している。また、毎年世界各地で留学生募集活動を活発に行い、留学生の数も順調に増加している。

最後に、第5章では上述の内容を総括し、若干の提言を加え結んでいる。

韓国は、科学技術に継続的に安定して拡充する投資を行っており、有望な若手研究者には修士・博士課程を問わず、分厚い支援を行っている。また、女性研究者の支援のためにも5年に一度「女性科学技術者育成支援基本計画」を制定して体系的な支援を行い、留学生の誘致等にも注力している。そのような首尾一貫した政策的取組により、韓国は TOP10%補正論文数3や女性研究者割合の増加率で日本を上回る成果を出すなどの発展をみせており、コロナ禍でも学位取得を目指す留学生の数は増加している。本稿が日本の科学技術人材育成・確保政策や韓国との科学技術協力の推進のための基礎情報として役に立つことを期待する。

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