2023年6月9日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈
韓国の産業通商資源部は5月26日、同国初となる「国家先端戦略産業育成・保護基本計画(2023~2027)」を公開した。当該計画では、先端戦略産業と指定されている半導体、ディスプレイ、二次電池に新たにバイオを追加した。
政府の発表によると、これらの先端戦略産業への企業の投資は、550兆ウォンを超える見込みである。政府は、先端戦略産業の育成に向け、製造力量の強化、技術・人材強国の実現、安定した供給ネットワークの構築、支援体系強化という4大目標を挙げた。
製造力量を強化するため、まず投資を誘致できる政策的・制度的基盤を構築するとした。先端戦略産業へ投資する企業に各種優遇措置(インセンティブ等)を増やし、許可・認可制度を簡素化することで、スピード感のある投資を促進するとした。企業への各種規制は、グローバルスタンダードに合わせ、大胆な改革に取り組むとした。
また、新たな国家産業団地を15追加するとした。韓国でいう産業団地とは、一つのエリアにその産業における主力企業、大学や研究所等の研究機関が集中されていることを指す。
技術・人材強国の実現に向けては、半導体、ディスプレイ、二次電池、バイオに関わる具体的な17項目の技術の開発に、4兆6千億ウォンを支援するとした。内訳は、以下の通りである。
また、企業が必要とする人材をタイムリーに供給できるよう、先端戦略産業別の特性化大学(例:半導体特性化大学)を運営し、修士・博士人材を集中育成するとした。スムーズな運営のために、「先端産業人材イノベーション法」も制定する見込みである。
補足すると、半導体特性化大学には、成均館大学、KAIST、蔚山科学技術院が指定されており、これらの大学はこれからの5年間で、計450億ウォンの支援を受ける予定で、計画通りだと1500人以上の半導体人材(修士・博士)が育成される見込みである。更には、技術が海外に輸出されるのを防ぐため、「専門人材指定制度」を運営する予定である。
安定した供給ネットワークを構築するため、政府は素材・部品・設備業界の企業のために1兆ウォン規模の流動性資金を用意するとした。また、素材・部品・設備のアラートシステムを運営し、供給量が少なくなっている素材や部品をタイムリーに把握することで、安定した供給を図るとした。とある国に輸入を大きく頼ることを避けるため、韓国政府は、輸入先の模索に積極的に取り組む予定である。必要に応じては、グローバル共同研究プラットフォームを構築し、国内企業と相乗効果を出せる素材・部品・設備企業を韓国に誘致することも視野に入れている。
なお、支援体系を強化するため、技術強国と共に技術プロジェクトを発掘し、グローバル協力ネットワークを拡大していく予定である。現行の技術調整委員会を先端産業調整委員会に改編し、政府としての迅速な対応に全力で取り掛かると宣言した。シンクタンクである産業研究院には、新たに先端産業戦略センターも設置する予定である。
産業通商資源部は、「国家戦略産業は、産業以上の戦略的価値を有している。経済成長、未来の食品、雇用創出、経済安全保障等関わるほど、重要な位置付けとなっている。先端技術力や製造能力の確保は、これからの国家の発展を大きく左右すると思われる」とコメントした。
半導体・ディスプレイ・二次電池・バイオの4大産業は、尹錫悦政権の12大国家先端技術や国政課題でも登場するほど重要な産業であり、韓国が投資を集中させている技術分野でもある。核心技術の確保や人材不足の解消が鍵となると思われるが、当該戦略はその突破口となれるか。今後の歩みをフォローしていきたい。