理工系人材への本格支援を宣言 韓国政府

2023年6月12日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈

人材が国家の競争力を左右する時代にあって、各国では人材確保・育成に全力を尽くしている。韓国では今年から尹錫悦大統領主催のもとで定期的に「人材養成戦略会議」を開催することとなった。人材養成戦略会議には、尹大統領、関係省庁の長官、民間の専門家が参加し、共に人材育成の方針や事業を検討している。

韓国では従来、各省庁が独自で人材養成事業を展開してきたが、省庁間の情報共有や連携が足りなく、事業の重複や効率の低下等が課題となっていた。今回の人材養成戦略会議は、このような課題を克服し、体系的な人材養成政策に取り組むため立ち上げたものである。

2月に開催された第1次会議では、先端分野での人材養成戦略1を発表した。そして、5月26日に開催された第2次会議では、理工系人材への支援案が公開された。国務総理は、「理工系人材への支援を大幅に拡大すべきである。第4次産業革命をリードし、他国との技術格差を確保するためには、優秀な人材確保が何より大事であるが、現状は楽観的ではない。先端分野人材の数は少なく、優秀な海外の人材も足りない。理工系人材への処遇改善は絶対的に必要である」とし、下記表の通り、理工系人材への支援方針を変えていくとした。

表 理工系人材への支援、どう変わる?
対象 今までは これからは
小中高校生 科学分野に興味を持つ学生が少ない 職業体験プログラムを増やし、科学への興味を高める
深化教育は、一部の学生しか受けられない 英才学校、科学高校の科目を一般学校でも共有する
科学英才の養成が不十分 英才学校や科学高校の制度を見直し、理工系の優秀人材を多く養成できるようにする
大学生・院生・ポスドク 非首都圏地域への研究人材への支援が不十分 地方の理工系人材への支援を強化し、格差を縮めていく
修士・博士への支援が不十分 大学院生の奨学金を多く新設し、人件費公開を義務化する
ポスドク研究者への支援が不十分 ポスドク研究者の法的地位を明文化し、支援強化とともに、待遇を改善する
若手・中堅研究者 挑戦的な研究、イノベーション性のある研究への支援が不十分 限界にチャレンジする研究開発を新たに支援する予定、破格的な研究成果の創出に導いていく
研究成果への奨励が不十分 職場での発明や特許出願を支援し、研究者への奨励・待遇を改善する
研究自律性が確保できていない 大学研究所制度を改善し、若手のイノベーション性のある研究を支援する
潜在的な人材 ベビーブーマー時代2の研究者の退職により生じるブランクに懸念が生じる 退職後の再就職を支援し、優秀な研究者が研究を継続できるように制度を整える
女性研究者が育児期間中に生じるブランクにより復帰ができない 研究開発の成果評価制度を全面的に見直す。育児期間中はブランク期間としてカウントしない等復帰をサポートする体制を整える
海外人材の活用が不十分 優秀研究者の誘致・定着を支援し、国際連携や共同研究も増やしていく

政府は、理工系人材への支援策とともに、エコ・エネルギー分野の人材育成方案も合わせて公開した。2027年までグリーン産業分野の人材を8万名追加育成し、専攻に関係なく受講が可能な「エコアップイノベーション融合大学」を今年から運営するとした。また、2030年までエネルギー専門人材を2万名追加育成し、企業ニーズ・地域ニーズに応えられる、グローバル競争力を持つ人材を育成する予定と明かした。

国務総理は、韓国現行の大学制度が時代遅れであることを指摘しつつ、より柔軟性が高く、自律性ある制度に改革する予定ともコメントした。

韓国ではこれから、人材養成戦略会議で人材育成に関わる全体の方針や事業が決まり、各省庁が業務を分担する形で進めていくだろう。会議には、産業・教育・研究現場の専門家も多く参加するため、ポジティブな変化が予測されるが、省庁間の連携や業務分担が適切に行われることがその前提となる。新たな試みが始まった韓国政府は、果たして人材育成戦略の打ち出しに成功するのか。

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