2023年6月19日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈
半導体は、韓国の尹錫悦政権の12大国家戦略技術の一つである。尹政権は、2022年7月に「半導体超強大国達成戦略」と「半導体関連人材養成案」を制定し、2023年3月には「国家戦略産業育成戦略」を公開した。これらの政策には、税制優遇を通じた半導体産業への投資活性化戦略や、300兆ウォン規模の最先端の半導体クラスター(集積地)の構築、半導体人材確保戦略が盛り込まれていた。
6月8日、韓国の産業通商資源部は、上記の政策に加え、「破壊力のあるイノベーション」を可能にする有望半導体技術の確保に1兆4,000億ウォンを追加で投資する予定と明かした。現在韓国には、知能型半導体研究開発支援事業(2022~2028年、規模は4,000億ウォン)と、次世代半導体事業(2020~2029年、規模は1兆96億ウォン)という2つの大きな半導体支援事業が展開されている。
これから推進を目指す「破壊力のあるイノベーション」を可能にする有望半導体技術事業には、車両用半導体、先端パッケージング技術への支援等が含まれる予定である。
また、素材・部品・設備と設計専門企業(ファブレス)に投資する3,000億ウォン規模の半導体専用ファンドを、今年の下半期に立ち上げる予定と明かした。金利上昇で苦しむ半導体業界のため、半導体企業に、2027年まで合計2兆8,000億ウォン(今年は5,000億ウォン)の金融支援を行う予定とした。
政府は、韓国の半導体産業がメモリ中心になっていることを指摘しつつ、非メモリ領域への拡張を目指し、国内ファブレスとファウンドリー(半導体の受託生産)間の協力強化を支援するとした。また、サムソン電子等の主要ファウンドリー企業と連携して、小ロット試作への支援を大幅に拡大するとした。
韓国政府は、「先端半導体技術センター(ASTC)」の立ち上げを予定していると明かしたが、このセンターは、素材・部品・設備の国産化のための新技術のテストベッドとしての役割と、優秀な半導体人材を支援する役割を果たすとされる。
産業通商資源部は、4月の尹大統領の訪米をきっかけに、米韓は、半導体技術センター間(米NSTCと韓ASTC)の協力事業を具体化していると明かした。
政府と企業は、今年から10年間にわたり2,228億ウォンを投資して、現場のニーズに合う人材を育成する事業を展開しているが、半導体人材を確保するため、引き続き半導体特化大学(院)の数を増やしていくとした。
尹大統領は、6月8日の半導体国家戦略会議で「半導体競争はもはや産業戦争であり、国家総力戦であるため、民官協力で解決する方法を模索すべき」と強調した。また、「半導体戦争で勝ち抜くためには、企業単体の努力だけでは限界があり、政府の政策上のリードや支援が不可欠である。半導体は我々の生活であり、安全保障でもあるため、産業経済そのものだと言っても過言ではない。各省庁の長官は、半導体産業の発展を妨げる全ての規制をなくすべき」とコメントした。
韓国において、半導体産業は輸出の20%、製造業整備投資の55%を占める重要産業である。韓国はメモリ半導体分野ではトップレベルの競争力を保っているが、半導体市場の6割を占める非メモリ分野ではまだ基盤が弱いと言える。半導体産業への支援に国の総力をあげると宣言した韓国は、競争が激しい半導体のグローバル戦で勝ち抜くことができるのか。今後の動きが注目に値する。