【AsianScientist】テロメアが高齢者のうつ病を予測する可能性

韓国の研究は、短いテロメアが健康な高齢者のうつ病や認知障害の早期診断に使用できる可能性を明らかにした。しかし、これを確認するにはさらに調査を続けなければならない。(2023年6月29日公開)

DNAは私たちの年齢を反映する。染色体の末端には「保護キャップ」であるテロメアがあるが、その短縮は細胞の老化を示す可能性がある。韓国で行われた新しい研究から、まだ比較的健康に見える高齢者のうつ病や認知機能低下の兆候を見つけるのにも役に立つかもしれないことが分かった。この研究成果は、Aging誌の表紙に掲載された。

人は年齢を重ねるにつれて、うつ病や認知機能低下の影響を受けやすくなるため、病気の進行を効果的に遅らせ、障害を最小限に抑えるには、早期診断が重要になる。テロメアは反復DNAシーケンスである。細胞が分裂するたびにすり減っていくので、細胞の老化速度を教えてくれる「分子時計」の役目を果たす。テロメア短縮は高齢者の重度のうつ病や認知障害と関連しているが、これらの疾患の初期兆候を反映し、早期診断に使用できるかどうかはまだ分からない。

韓国の漢陽大学校と仁荷大学校の研究者チームは、その答えは以前実施されたSUPERBRAIN調査にあることを見出した。この調査は137人の比較的健康な成人を対象としたランダム化比較調査である。まず高齢者の脳の健康を保護するためのライフスタイル介入について調査を行うためにアンケートを行い、ベースライン時に 1回、さらに6カ月後フォローアップ時に血液サンプルを分析し、測定を行った。

チームが統計分析を行ったところ、初期の自覚的なうつ症状と認知機能障害は、実際には比較的短いテロメア長と関連していることが分かった。分析結果は老年期うつ病評価尺度が1ポイント増加するとテロメア長が約60塩基対、認知面接スコアが 1ポイント増加すると 110から140塩基対減少することを示していた

チームはさらに、高齢者疾患に関連する血液バイオマーカーであるインターロイキン (IL)-6の濃度もテロメアの長さと関連していることを発見し、IL-6濃度1ポイント増加するごとに、テロメア長はおよそ80から90塩基対の縮小が生じることが分かった。

「炎症性サイトカインであるIL-6は、TLの短縮と自覚的なうつ症状および認知機能障害との関係にで重要な役割を果たしていると考えています」とチームは語る。

エビデンスは、炎症経路が細胞老化の加速とうつ病および認知機能低下を結びつける上で重要な役割を果たしていることを示している。これは損傷や感染に対する体の自然な反応であり、サイトカインとして知られる化学物質の放出を引き起こし、障害の原因となる。慢性の軽度の炎症は、酸化障害によってテロメアを徐々に侵食する可能性を持つ。短いテロメアを持つ細胞は、IL-6のような炎症性サイトカインを多く生成する傾向があるが、これは脳の構造的・機能的変化を悪化させ、認知機能の低下やうつ病などの気分障害につながる危険なサイクルを引き起こす。

これらの調査結果は重要な意味を持つが、チームは調査には限界があるためこれらを確認する必要があることを理解している。たとえば、本調査はテロメア長とうつ病および認知障害の初期兆候との関係の検討を主な目的として設計されてはいない。本調査は実現可能性調査にすぎないため、調査結果を再確認するには、さらに規模の大きいランダム化比較試験を必要とする。加えて、テロメア長の変化が長期的にどのように機能するかを詳しく理解するには、テロメア長を測定する時間の間隔を長くしなければならない。

「将来的には大規模なランダム化比較試験(RCT)を通じて結果を検証する必要がありますが、私たちの調査結果は、健康な高齢者のうつ病や認知障害の予防と治療に役立つと信じています」と研究チームは語る。

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