2023年7月10日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
韓国の尹錫悦政権の12大国家戦略技術や先端戦略産業には、いずれも半導体が含まれている。韓国の場合、メモリ分野の半導体では世界トップレベルである。非メモリ分野では苦戦しており、更なる突破を目指して近年半導体関連の諸戦略を打ち出しているが、その中の1つが2022年7月に公開した「半導体関連人材育成方案」1である。
当該方案では、半導体分野で優秀な研究成果を挙げている大学や大学院を「半導体特化大学」と指定し、政府が破格の財政支援を行うとの記載があったが、6月13日、教育部より8つの大学が半導体特化大学に選定されたとの発表があった。
半導体特化大学とは、半導体産業(企業)のニーズに合致した実務能力の高い学士人材と、研究能力の高い修士・博士人材を育成できる十分な研究・教育能力を有している大学を指す。選定された大学は、指定された半導体関連分野の学科やコース等を新設し、半導体人材育成に特化したカリキュラムを考案する必要がある。
学界・研究、産業界の各専門家による検討、現場調査、総合評価を通じ、首都圏の3つの大学と地方の5つの大学が半導体特化大学として選定された。これらの大学は単独型と同伴成長型に分かれるが、同伴成長型の場合、複数の大学が連携して共に事業を推進する必要がある。
各大学の人材育成方法としては、半導体関連学科や専攻を新たに立ち上げる方法と、半導体トラックを新設する方法がある。半導体トラックというのは、産学連携をモットーにする履修プログラムで、学位は取得できないが、専攻関係なく半導体知識が学べるとの利点がある。在学中に指定された科目の単位を履修し、大学と連携されている半導体企業や研究機関で一定期間(6ヶ月が最も多い)インターンシップを通じ実務経験を積めば、半導体トラックの修了証明が発行される。大学によって異なるが、半導体トラックを履修した学生には、大学から就職支援や修士課程に進学する際の奨学金支給等のメリットが付与される。
地域 | 類型 | 年間支援額 (4年間継続) |
大学名 (太字は主管大学) |
特化分野 | 人材育成方法 |
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首都圏 | 単独型 | 45億ウォン | ソウル大学 | 回路・システム・素子・工程 | 半導体トラック新設、先端融合学部半導体専攻を新設 |
首都圏 | 単独型 | 45億ウォン | 成均館大学 | 次世代半導体 | 半導体トラック新設、半導体融合専攻、半導体融合工学学科新設 |
首都圏 | 同伴成長型 | 両学校合わせて 70億ウォン |
明知大学― 湖西大学 |
素子・部品・設備・パッケージング | 半導体工学科共同教育課程を新設 |
地方 | 単独型 | 70億ウォン | 慶北大学 | 回路・システム・素子・工程・素材・部品・設備 | 半導体トラック新設、半導体特性化融合専攻を新設 |
地方 | 単独型 | 70億ウォン | 高麗大学世宗キャンパス | 尖端半導体工程設備 | 半導体融合専攻を運営 |
地方 | 単独型 | 70億ウォン | 釜山大学 | 車両の半導体 | 半導体融合専攻と半導体工学専攻を新設 |
地方 | 同伴成長型 | 両学校合わせて 85億ウォン |
全北大学― 全南大学 |
次世代モビリティ半導体 | 半導体融合専攻を新設 |
地方 | 同伴成長型 | 三学校合わせて 85億ウォン |
忠北大学― 忠南大― 韓国技術教育大学 |
非メモリ半導体、ファウンドリー半導体 | 半導体共同融合専攻と半導体特性化トラックを運営 |
教育部は、半導体人材育成を支援するため、「半導体人材育成支援協力センター」を運営し、大学、企業、研究機関に必要な情報をタイムリーに共有しつつ、産学機関の人材のニーズや産業動向を把握し、必要な支援事業を展開することで、半導体人材育成を支えていくとした。
半導体特化大学では、半導体専攻や学科を新設し、専門性の高い半導体人材を育成するほか、分野を跨ぐ融合人材の育成を目指し半導体トラックも設けている。通常の大学カリキュラムとは異なり、半導体特化大学では、産学連携を第一に、授業だけでなく、キャンパス外の活動や研修にも単位を付与している。半導体特化大学は、最低でも年間約45億ウォン規模の支援額が支給される大規模人材育成事業であり、柔軟性が極めて高いカリキュラムの運営を通じ、より多くの半導体人材の育成を目指している。韓国でも初となる試みであるが、如何なる成果に繋がるか期待が高まる。