韓国、ICT研究人材を育成する大学に最大150億ウォン支援

2023年7月12日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国の科学技術情報通信部(MSIT)は、デジタル経済成長の動力である修士・博士人材を育成するため、ICT(情報通信技術)研究人材育成事業を展開し、20の大学を集中支援することを明らかにした。ハイレベルの研究人材を育成することで、技術競争力の確保を目指すとのこと。ICT研究人材育成事業には、ICT研究センター事業、地域知能化イノベーション人材育成事業、学士・修士連携ICT核心人材育成事業が含まれる。

まず、MSITは、ICT研究センター事業を実施する大学を今年12カ所(分野によって一部重複あり)指定し、年間10億ウォンずつ(初年度のみ5億ウォン)最長8年間支援するとした。ICT研究センター事業とは、先端戦略技術と有望技術分野の研究人材(修士・博士人材)を育成する事業である。各大学は、年間40人の研究人材育成を目標とする。

この事業は2000年から始まったが、今まで計1万7,178人の先端技術分野の研究人材を育成した。この数は情報通信分野の大学院修了人数の12%に相当する。彼らは、6,112件の特許登録、1万3,881件のSCI論文、13件の国家研究開発優秀成果100選定など、多くの研究成果を出し、ICT産業の発展や経済成長に貢献してきた。

表 ICT研究センター事業を実施する大学(2023年選定)
研究分野 実施大学 研究分野 実施大学
AI半導体 西江大学 エネルギーICT 嘉泉大学
サイバーセキュリティ 釜山大学 ヘルスケアICT 高麗大学
量子情報通信 蔚山科学技術院 農林・畜産ICT 順天大学
電波と衛星 仁川大学 次世代通信 光云大学
次世代コンピューティング 慶熙大学 モビリティ KAIST
Web3.0 西江大学 知能型IoT 釜山大学

また、当該地域の主力産業と連携して、ハイレベル人材を育成する地域知能化イノベーション人材育成事業を実施する大学には、今年2カ所が指定され、年間20億ウォンずつ(初年度のみ10億ウォン)最大8年間支援が行われる予定である。これらの大学では、年間20人の研究人材を育成する。

2015年から開始したこの事業は、今まで全南(スマートファム)、釜山(造船海洋ICT融合)、大田(無線通信融合)エリアで実施されてきたが、648人の研究人材を育成し、地域経済の活性化や産業競争力強化に貢献した。

表 地域知能化イノベーション人材育成事業を実施する大学(2023年選定)
地域 実施大学 研究分野
カンウォン道 カンウォン大学 AI、ビックデータ、ヘルスケア、スマート観光
仁川広域市 仁河大学 半導体、自動車、バイオ

それから、学士・修士連携ICT核心人材育成事業を実施する6つの大学には、年間2億5千万ウォンずつ(初年度のみ1億2,500万ウォン)最大5年間の支援が行われる予定である。こちらは、大学と企業がPBL(Problem-based Learning) を基盤に、研究教育カリキュラムを設計・運営し、問題解決能力を有するICT研究人材を育成する事業であるが、今まで199人の研究人材を輩出した。今年選定された大学では、年間10人の研究人材の育成を目標とする。

表 学士・修士連携ICT核心人材育成事業を実施する大学(2023年選定)
分野 実施大学 分野 実施大学
AI 東国大学 AI 檀国大学
ICT融合 成均館大学 AI 仁川大学
IoT 釜慶大学 ビックデータ 延世大学

MSITの情報通信産業政策官は、「AI半導体、超巨大AI等の先端産業の競争力は、世界最高レベルの有能な人材にかかっている。デジタル大転換の時期を先導できる人材の確保と育成に、これからも惜しみのない政策支援を行う予定である」とした。

2023年2月の予算編成の際に、MSITは、ICT修士・博士人材事業に2022年より19.4%増加した1274億ウォンを投資し、2027年まで2万2千人の研究人材を育成すると計画を公開したことがあるが、計画通りに順調に進んでいる。

今回のICT研究人材を育成事業は、実施主体によるが、最大150億ウォン規模の支援を受ける大学もあり、韓国においては、大規模な人材育成事業と言える。尹錫悦政権の12大国家戦略技術1は、産業共通の核心技術とされる必須基盤技術、既に韓国がある程度強みをもっており韓国経済や産業を支えている先導技術と、まだ欧米諸国に比べては格差があるものの、国家安全保障や経済成長の観点から確保せざるを得ない未来挑戦技術に分かれる。今回の研究人材育成事業分野を見ると、先導技術と必須基盤技術に多く集中されており、優位に立っている技術分野を更に強化することで、他国との差を広げていきたい韓国の狙いが現れている。

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