韓国、初の量子科学技術戦略を発表

2023年7月14日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー)

韓国の科学技術情報通信部(MSIT)のイ・ジョンホ長官は6月27日、同国初となる「韓国量子科学技術戦略」を公開した。

当該戦略には、2035年まで民官協力で最低でも量子技術に3兆ウォン以上を投資して、量子技術を米国や欧州の85%程度に引き上げたいとの目標が盛り込まれた。また、量子技術を先導するハイレベル人材(核心人力)を現在の7倍に相当する2,500人に増やし、量子関連仕事に従事する人数も1万人以上に増やしていきたいとした。韓国は、2035年まで量子産業の世界市場占有率10%を目指しており、量子技術を供給・活用する企業も1,200社程度になることを期待している。

MSITによると、今回の量子戦略は尹錫悦大統領が1月にスイス連邦工科大学チューリッヒ校を訪問した際に、量子の専門家たちと交わした会話内容を反映しており、量子科学技術への中長期ビジョンと発展戦略も盛り込んでいる初となる量子国家戦略である。

量子科学技術戦略の主な内容は、下記のとおり。

① ミッション志向型のファンディングプロジェクトで量子研究開発を推進する

米国や欧州に比べ量子技術が遅れているため、技術の引き上げを目的に、明確なミッション(任務)と期限を設けるミッション志向型のファンディングプロジェクトを通じ、研究開発を進める。量子コンピューティングにおける諸技術の競争が激しいため、幅広い可能性を検討しつつ、技術の成熟度や優位性をタイムリーにフォローし、選択と集中を強化する。

量子コンピューティング分野では、2031年まで量子ビット級の超電導を基盤にする汎用量子コンピューティングの開発を目標に、関連技術を確保する。

また、イオントラップ、光子、半導体スピンなど多様な量子コンピューティング方法への研究開発を強化して、既存コンピュータと量子コンピュータの連携を図る技術開発も支援する。

② 量子ハイレベル人材2,500人を育成する

量子人材確保を最優先課題とする。量子技術に関わる学科を新設・増設し、量子大学院を通じて、現在384人いるハイレベルの量子人材を、2035年には2,500人程度まで増やしていく。電子工学、制御・システム工学等、量子システムの実現及び制御を可能にする量子エンジニアへの教育やトレーニングを通じて、融合人材を確保する。

韓国の学生や研究者を海外の研究機関に派遣し、海外派遣を通じ、2035年まで500人程度のグローバル人材を確保する。地域ごと(米国や欧州等)に量子科学技術協力センターを設置して、人材の循環や流動を支援する。

③ 量子研究・産業インフラを整える

量子の素子工程、量子素材・部品・設備における技術を確保することで、研究環境を改善し、産学連携を通じ、量子科学技術の発展を支える。

2027年まで研究者の直接利用が可能な研究者主導型オープン量子ファブを拡充し、2031年には公共量子ファウンドリー、2035年には民間量子ファウンドリーを構築する。

④ 量子経済のための産業基盤を作る

量子活用産業とスタートアップを育成し、官民協同プロジェクトの活性化に向け、制度支援を強化する。スタートアップを2035年まで100個に増やし、量子関連企業や研究機関が集中されている地域に政府と自治体が共同で支援する「量子集中育成圏域」を作る。

⑤ 国防、安全保障における特化研究室を拡充する

量子科学技術を適用した武器を導入するため、2025年まで国防分野の量子特化研究室を3か所に増やし、既存の暗号体系を次世代暗号であるポスト量子暗号に転換していく。

⑥ 法律等を制定して支援体系を確立する

政府は継続支援を可能にする体系を作るため、「量子科学技術及び量子産業の育成に関する法律」を制定する。また、2035年量子経済への転換を目指し、官民協同で3兆ウォン以上支援し、戦略ロードマップに沿って、民官協力統合研究開発事業(Flagship Project)を推進する。

イ・ジョンホ長官は、「韓国の量子科学技術の開発は、他国に比べ遅れているが、まだ産業化が本格的に始まっていないため、チャンスはあると思われる。2035年段階で先導国となるため、産学研官が協力して、量子総力戦を展開する予定である」とした。

韓国政府が、量子技術に本格的に投資を始めたのは2019 年からである。量子技術における政府の研究開発予算の投資は、2019 年の 106 億ウォン(10.6 億円)から、2021 年には 328 億ウォン(32.8 億円)、2022 年には 603 億ウォン(60.3 億円)と大幅に増えたが、まだ米国や中国と格差が大きく、尹錫悦政権の12大国家戦略技術でも量子の技術レベルは2020年基準で、米国の62.5%に過ぎないと評価した。次世代のゲームチェンジャーとも言われる量子技術、各国が技術開発に積極的に取り組むなか、産学研官を挙げた総力戦のカードを取り出した韓国は、ここから飛躍的な発展を見せられるのか。

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