2023年8月30日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー)
韓国の中小企業ベンチャー企業部は8月10日、「上半期ベンチャー投資およびファンド結成動向」を公開し、同国の今年上半期のベンチャー投資額が4兆4,000億ウォン、ファンド結成は4兆6,000億ウォンになったと明らかにした。ベンチャー投資額は昨年同期比で41.9%減少した。
韓国では昨年下半期から始まった金利上昇、実物景気鈍化により、今年は流通やICTサービス分野における投資額が大幅に減少した。各分野における減少率は次の通りである。
流通・サービス:-63%、ICTサービス:-61%、ゲーム:-58.4%、バイオ・医療:-54.7%。増加したのは、素材・部品・設備に関わるスタートアップへの投資のみで、電気・機械・設備が+9.8%、ICT製造が+7%となった。
企業年数でいうと、創業3~7年の中期スタートアップ企業が受けた影響が最も大きく、昨年上半期比でベンチャー投資額が57%減少した。創業3年以下の初期スタートアップは38.5%、7年以上の29.3%の投資額減少を見せた。
今後のベンチャー投資規模を予測できる新規ベンチャーファンド結成も前年比47.2%減少した。
このような厳しいデータに対し、政府は、どのような見解を示したか。
中小ベンチャー企業部長官によると、2021~2022年上半期は、コロナ禍における非対面の推進、それからバイオに対する投資が一時的に急増したため、総額がほぼ倍増したが、異例なケースとみなすべきである。また、このような現象は、韓国のみならず、世界主要国でも起きているため、当該期間を比較対象にするのは望ましくないという。
異例区間を省いた直前の2019~20年の上半期に比べると今年は40%増加した額に相当し、2008年から15年のデータを基盤に比較しても、安定的な増加傾向が伺える。今年からは、特定分野へ投資が偏る傾向も緩和され、年度末の投資額も通常の増加幅を上回ると想定される。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
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投資金額(億ウォン) | 35,501 | 31,710 | 67,725 | 76,442 | 44,447 |
投資件数(個) | 2,536 | 2,288 | 3,598 | 4,191 | 2,927 |
1件あたりの投資金額(億ウォン) | 14 | 13.9 | 18.3 | 18.2 | 15.2 |
被投資企業の件数(個) | 1,502 | 1,489 | 2,163 | 2,305 | 1,781 |
1企業あたりの投資金額(億ウォン) | 23.6 | 21.3 | 30.4 | 33.2 | 20 |
出典:中小企業ベンチャー企業部・金融委員会「近5年の上半期ベンチャー投資状況」
韓国政府は、ベンチャー投資への過度な心配は不要と強調しつつ、投資環境を改善するため、上半期から諸戦略の打ち出しに注力している。2023年4月の「ベンチャー・スタートアップ資金支援及び競争力強化方案」に続き、資金流動に苦しむ中小企業を支援するため、低金利で金融支援を行う、信用保証基金や技術保証基金も新設した。また、銀行のベンチャーファンドへの出資上限の引き上げ、ベンチャーファンドに出資する法人に税制優遇措置等も実施している。
中小企業ベンチャー企業部金融委員長は「高金利が続いたこともあり投資不況が続いたが、これからはスタートアップコリア総合対策等の諸戦略を着実に推進しつつ、制度改善、資金支援に注力し、安定したベンチャー投資市場を保っていきたい」とコメントした。
韓国においては、これからがベンチャー投資における政府の真価が問われる時期と思われる。政府の努力が実を結び、ベンチャー投資のマイナス傾向を引き留められるか。今後の動向をフォローしていきたい。