ストレスホルモンは子供の脳に悪影響を及ぼすが、韓国の研究者チームは2つの実験を行い、その根底にあるメカニズムを明らかにした。(2023年9月26日公開)
子供時代に受けたネグレクトや虐待は極度のストレスを引き起こし、脳の発達や機能に大きな影響を与えうる。今までの臨床データから、子供時代に虐待や感情的ネグレクトを経験した者は、成人してからうつ病や統合失調症などの精神健康問題を発症するリスクが高いことが分かっている。しかし、この根底にある正確な生物学的メカニズムは知られていなかった。
韓国科学技術院 (KAIST) の研究チームが実施した最近の研究から、子供時代の虐待やネグレクトが統合失調症などの疾病を引き起こす生物学的メカニズムが解明された。チームの研究はImmunity誌に発表された。
研究チームは当初、米食品医薬品局(FDA)が承認した薬剤を調べ、アストロサイトが周囲から有害物質を除去して神経細胞を健康に保つ経路を制御する因子を特定しようとした。アストロサイトは星形の細胞であり、中枢神経系の構造や生理機能を支えてくれる。アストロサイトはpH レベルを調整し、酸化ストレスを調節し、神経細胞に栄養を与えることもある。
チームはアストロサイトが糖質コルチコイドと呼ばれるストレスホルモンに曝露すると、脳細胞間の接続(シナプス)を過剰に除去してしまうことも発見した。シナプスは末梢神経系の感覚器官と脳を結び、痛みや接触などの感覚に関連する信号を伝達する。
次に、上記の発見を検証し、子供時代のストレスがアストロサイトに与える影響を知るために、チームは、幼い時期にストレスに曝露させたマウスの脳細胞を調べた。チームはストレスホルモンがアストロサイト上の特定の受容体に結合し、MERKと呼ばれるたんぱく質を過剰産生させることを発見した。
このたんぱく質は、アストロサイトに脳の特定の接続を遮断するよう促す。これにより、脳に異常なネットワークが形成され、このため複雑な行動上の問題やうつ病を引き起こすことがある。 チームは、これらの発見が人間に当てはまるかどうかを確認するために実験室で培養したヒトの脳細胞を対象に研究を再現したところ、ストレスホルモンが人間の脳細胞に同様の影響を与えることを発見した。
「今まで、子供時代のストレスが脳疾患を引き起こす正確なメカニズムはわかりませんでした。この研究は、アストロサイトの過剰な貪食が脳疾患の大きな原因である可能性があることを初めて示しました」と、この研究を率いたKAIST生物科学部のウォン・スクチュン (Won-Suk Chung) 准教授は述べた。
「将来的には、アストロサイトの免疫応答をコントロールすることが、脳疾患の理解と治療の基本的な目標として使用されるようになるでしょう」と彼は付け加えた。