2025年度R&D予算案確定、1年ぶりに増額へ 韓国政府

2024年9月4日 安 順花(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国政府が2025年度研究開発(R&D)予算案を29兆7000億ウォン(約3兆2000億円)と策定し、国家科学技術諮問会議審議会議で確定した。2024年度の政府R&D予算26兆5000億ウォンに比べて11.8%増額となった。

韓国政府のR&D予算は1991年以来年々増加を続けてきた。しかし、2022年に就任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が、分け合い式のR&Dをゼロベースから見直す必要があると指摘した後、2024年度R&D予算は33年ぶりに大幅減少した。その後、研究現場の研究者など科学技術界から懸念の声が広がった。とりわけR&D予算削減によって、元々研究費の獲得が難しかった若手研究者や、不安定な雇用形態の学生研究員・ポスドクなどに甚大な打撃を与えるという批判を受けた。波紋が広がると2024年4月、韓国政府は2025年度R&D予算を歴代最高水準で編成すると明らかにした。

韓国政府の来年度R&D予算案には、このような指摘を踏まえた配分が見受けられる。8月28日に公表した科学技術情報通信部の来年度予算案によると、基礎研究事業に歴代最高レベルの約2兆3000億ウォン(前年比10.5%増)が割り当てられた。昨年の予算削減から一変した理由として、R&D予算削減による研究現場の懸念や懸案に積極的に対応すべく、また、革新性と戦略性に基づく基礎研究強化を中心とした投資を増やしたためだと説明した。

来年度の基礎研究の重点投資方針として以下の3つが挙げられた。

1. 対応すべき懸案を中心とする投資強化

昨年、基礎研究事業の継続支援課題の予算削減によって「生涯基本研究」が廃止され、若手研究者をはじめ、多くの研究者が自分の研究に対して不安が高まった。特に学生研究員およびポスドクの学業・研究環境が悪化するという研究現場からの懸念が募った。

このような指摘を受けて、基礎研究の特殊性を考慮し、削減された継続支援課題に対して、削減前の2023年水準にまで支援を増やす。

また、研究分野の多様性を確保し、より安定的な研究環境を提供するために、小規模であるが優れた研究を支援する「創意研究」事業の新規課題件数を、2024年の140件から2025年は800~900件へと大幅に増やす。さらに若手研究者が様々な研究機会に触れ、早期成長できるように、「優秀新人研究」支援事業内に小規模支援枠を新設する。

2. 革新的・戦略的基礎研究中心の投資を拡大

世界レベルの基礎研究能力を確保するために、革新性および戦略性に基づく基礎研究プログラムを中心に投資を大幅拡大する。

そのために、世界レベルの大学付設研究所の育成に向けて国家研究所事業を新設する。国家研究所事業は科学技術情報通信部と教育部が共同推進する事業であり、大学の強みのある分野の大学付設研究所に対してブロックファンディング方式(募集総額を複数回に分け大型の資金調達を行う手法)で、研究施設・装備、人材などを統合的に支援する。これに100億ウォン(教育部予算案の100億ウォンは別途)を要求する。

また、優秀研究者をより一層支援するために、後続研究を支援する「跳躍研究」を新設する。跳躍研究は基礎研究を遂行している研究者の中で優れた成果を創出した研究者に対して、後続研究の機会を与えることで成果が継続的につながるように支援する事業である。2025年には750億ウォンを要求する。

世界的に浮上する新しい分野の開拓、突破型研究を支援する「開拓研究」も新設する。開拓研究は革新・挑戦型事業として指定されており、より挑戦的かつ創意的な研究が行われるように革新的な評価・管理体制を導入する。開拓研究事業には150億ウォンを配分した。

3. 政府の政策的戦略および国家・社会的ニーズに基づき支援する「国家議題(アジェンダ)基礎研究」を新設

国家議題(アジェンダ)基礎研究は政策的に必要な分野を政府が指定し、該当分野内で研究者たちが自由に提案・公募する方式で進められる。国家議題(アジェンダ)基礎研究事業には400億ウォンが配分された。

一方、学生・若手研究者のために、生活奨励金、研究奨励金、奨学金の3つを支援することで、先導型研究エコシステムを構築する。2025年から理工系大学院生に毎月修士課程80万ウォン、博士課程110万ウォンを支援する、いわば韓国型スタイペンド(理工系大学院研究生活奨励金)に600億ウォンを配分した。これに加えて、修士博士研究奨励金研究課題は従来の2472件から5131件へ拡大し、大統領科学奨学金も修士課程1000人を新規公募する。

図 韓国科学技術情報通信部の2025年度予算案(重点投資分野)の内訳
先導型R&D支援 4兆3,167億ウォン
3大ゲームチェンジャー 1兆326億ウォン→1兆2,958億ウォン
革新・挑戦的研究 1,260億ウォン→1,925億ウォン
先端戦略技術 4,132億ウォン→4,884億ウォン
未来エネルギー 617億ウォン→877億ウォン
出捐研究機関 2兆33億ウォン→2兆2,523億ウォン
AI・デジタル革新 8,841億ウォン
AIデジタルトランスフォーメーション 5,835億ウォン→6,250億ウォン
デジタル安全・包容 2,568億ウォン→2,592億ウォン
核心人材育成&基礎研究の拡大 3兆5,697億ウォン
若手研究者 6,376億ウォン→7,658億ウォン
新技術人材 4,576億ウォン→4,626億ウォン
基礎研究の拡大 2兆1,179億ウォン→2兆3,413億ウォン
戦略的国際協力の強化 1兆2,547億ウォン
先端技術協力 1兆347億ウォン→1兆1,462億ウォン
国際協力基盤の強化 961億ウォン→1,085億ウォン

出典:韓国科学技術情報通信部

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