2025年3月19日 安 順花(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
韓国政府は海外の優秀な人材を積極誘致するためにビザ制度を改善し、産業界・自治体のニーズを反映する柔軟なビザ発給プロセスを構築すると明らかにした。2025年3月5日開催された外国人政策委員会(委員長国務総理)では、経済成長と地域発展に向けたビザ制度改善などが審議された。
世界各国では、先端産業分野のグローバル競争力を強化するために、高度人材誘致競争が激しくなっている。これを受けて、今年3月をめどに、世界トップレベルの先端産業人材が韓国を選択するよう促すトップティア(Top Tier、最高レベルの意味)ビザを新設する。ここでの先端産業分野とは、半導体、ディスプレイ、二次電池、バイオ、ロボット、防衛産業など、韓国の主力産業分野である。
トップティアビザの発給対象は、世界ランキング100位圏大学の修士・博士学位取得者、かつ世界500大企業での3年以上の勤務経験を含めて合わせて8年以上のキャリアを持つ外国人で、年俸が一人当たりGNI(国民総所得)の3倍(約1億4000万ウォン、約1,415万円)以上の国内先端分野の企業に勤務予定者となる。トップティアビザ対象の本人とその家族(配偶者及び未成年の子供)には就職や定住が可能な居住ビザ(F-2)がすぐ発給される。また3年経過すると永住権が取得できるようになる。
また、トップティアビザとは別であるが、世界ランキング100位圏大学の修士以上の高度人材の国内定着率を高めるために、国内就職が確定されていなくても、求職ビザ(D-10)で2年間就職活動を許可する。
もう一つ、「青年ドリームビザ」を新設する。韓国戦争参戦国連加盟国や主要経済協力国などの韓国を夢見る若者に、韓国のカルチャー体験、インターンシップなどの機会を与える。
現在ワーキングホリデービザで入国した多くの外国人が首都圏に滞在していることから、青年ドリームビザは地方に必要とする人材が流入できるように、対象者の選定から研修、就職、定着まで自治体・大学などと協力し運営する。青年ドリームビザを通じて入国した人材は一定期間の研修を経て、国内先端産業から、農業、製造業まで様々な産業分野に就職可能となる。また、対象者が自国に帰国した後も、韓国へのイメージアップにつながることが期待されている。
韓国政府は近年海外からの人材誘致の必要性を認識し、「国家先端戦略産業法(2022年8月)」及び「先端産業人材革新特別法(2025年1月)」を制定した。
これを受けて、産業通商資源部では2024年9月に「開放・革新に向けた先端産業海外人材誘致・活用戦略」を発表し、海外人材誘致に乗り出した。その具体的な施策となるのが「K-テックパス(K-Tech Pass;優秀海外人材認証書)」である。「K-テックパス」は2030年まで先端産業海外人材1000人誘致を目標として、優秀な海外人材を対象とした特別ビザ新設及び定住支援プログラムである。「K-テックパス」は半導体、人工知能など先端産業のプロジェクトの企画、技術開発を主導する世界ランキング100位圏大学の理工系修士・博士学位を持つ、主席エンジニアレベルの人材を対象とする。対象者には入国、滞在、就職の制限を大幅緩和した特別ビザプログラムが提供される。
まず、入国後3年経過してから許可されるF-2ビザ(長期滞在・離職自由)への変更が、入国後1年経過となる。ビザ審査期間は2カ月から2週間に短縮される。同伴入国許容範囲も配偶者、子供から親、家事サポーターも許容する。
また、子供の外国人学校定員外入学を許容し、賃貸保証金のローン上限も2億ウォンから5億ウォンへ増やし、韓国人と同等レベルにする。税制においても外国人技術者への勤労所得税減免(10年間50%)対象にKテックパス発給者を含めることも検討する。
併せて国内定着も支援する。韓国語教育、通訳、行政手続き、不動産紹介、公演・展示など文化にも触れられるように、様々な支援を行う。さらに、トップティアビザ対象者はK-テックパス支援も追加して受けられる。
要件 | 審査基準 | |
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雇用状況 | 国内先端企業への就職確定 | 雇用契約締結企業が「先端人材法」上の先端産業に営む |
年俸 | 一人当たりGNIの3倍以上* | ・ 国内先端企業と締結した雇用契約書上の年俸 ・ 韓国銀行発表前年度一人当たりGNI基準(発表前の場合、前々年度) |
経歴 | 世界500大企業で3年以上勤務を含めて合わせて8年間の勤務経験 | ・ 次のグローバル企業ランキングのうち、一つ以上該当(直近5年) ① Fortune Global 500 ② Fobes Global 2000(ただし、500位内企業に限る) ③ Times 100 Most Influential Companies |
グローバル研究機関で3年以上勤務を含めて合わせて5年勤務 | ・ 次のいずれかに該当 ① 世界ランキング100位内の理工系大学の研究所 ② 世界ランキング500大企業の付設研究所 ③ 政府系研究所 |
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学歴 | 世界ランキング100位内の理工系大学の理工系修士・博士学位取得者 | ・ 大学評価ランキングのうち、一つ以上該当(直近5年) ① QS World University Rankings for Engineering and Technology ② Times Higher Education World University Rankings by subject engineering ③ US News Global University Rankings by subject engineering |
工学・理系専攻(韓国教育開発院の学科分類基準) |
* 契約年俸がGNIの4倍以上の場合、学歴及び経歴要件を緩和。
出典:韓国省庁合同「先端産業優秀海外人材誘致に向けたK-Tech Pass施行方策」
さらに、優秀な外国人誘致の体系的な支援のために、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)は2025年2月に海外人材誘致センターを新設した。同センターでは海外人材の発掘、誘致、定着など総合的な支援を行う。