2025年8月28日 JSTアジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『韓国における半導体人材育成施策と実態』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy24_rr04
近年、半導体産業発展の重要性が持続的に高まるにつれ、主要国の間での技術覇権競争も激化している。半導体産業のさらなる発展のためには、優秀人材の確保による技術競争力の強化が重要である。一方、日本や韓国などの主要国は、グローバル競争の激化に加え、人口減少などの要因により、半導体人材の不足に直面している。これを受けて、韓国政府は2022 年に「半導体関連人材養成方案」を策定し、政府省庁が連携して全方位的な人材育成を推進し始めた。本研究では、韓国の半導体産業の現状と人材需給に関する課題を調査し、課題解決のための政府や企業が推進している人材育成施策を分析した。韓国の人材育成施策の背景、目的、推進内容などを詳細に分析し、人口減少や半導体人材不足の状況が共通する日本の今後の政策の策定・推進に関する示唆を提供することを目的とする。
第1章では世界半導体市場の動向を調査し、韓国半導体産業発展の背景、特徴及び世界市場での地位と今後の展望を分析して韓国半導体産業の既存の成長モデルが限界に直面していることを確認した。世界の半導体市場は人工知能(AI)、移動通信、モビリティなど関連産業の半導体需要の拡大を基に成長を続けており、機能の向上や高効率化の要求が拡大するにつれ、成長傾向は持続するものと予想される。韓国の半導体産業は1960 年代の発展初期に、政府の技術開発及び研究支援を基に成長し、1990年代にはサムスン電子、SK ハイニックスなど大型IDM(垂直統合型デバイスメーカー)の大規模投資を基に技術主導権を確保した。2000年代後半にはついにグローバル価格競争のチキンゲームに勝利し、メモリー半導体市場で優位を占めることに成功した。韓国半導体産業はサムスン電子、SK ハイニックスの大型IDM2社を中心に発展してきたため、両企業に対する依存度が非常に高いという特徴がある。最近では、両企業以外のファブレス、ファウンドリ、OSAT(半導体後工程の組み立てや検査を請け負う企業)、製造装置メーカーなど工程別に特化した一部の企業が存在感を拡大しているが、メモリー半導体以外の産業基盤は脆弱である。特に、最近AIをはじめとする先端技術を必要とするシステム半導体の需要が増加する中で、韓国半導体産業はシステム半導体市場では競争力を確保できておらず、メモリー半導体市場でも中国の成長による市場占有率の喪失危機に直面していることが明らかになった。
第2章では、このような産業動向の中で韓国半導体産業が直面する人材供給不足の状況を調査し、それに基づいた課題を分析した。そして韓国では人材供給ボトルネックが半導体産業の競争力の低下を招きかねないと憂慮されていることを確認した。韓国政府及び企業は半導体産業の競争力を確保するための投資を持続的に拡大しているが、半導体人材供給不足が今後の産業発展の障害となっている。その原因としては、次世代技術イノベーションにともなう人材需要の多様化が見込まれるのに対して、この需要への対応が難しい実務型中級人材中心の育成構造となっていることや人材育成に向けた政府によるインフラ整備が不足していることが指摘されている。現在と同レベルの人材供給が維持される場合、2031年には7万7000人の人材不足が発生すると予想されている。
第3章では半導体人材不足問題の解決のために韓国政府が推進している人材育成戦略および推進体制を調査し、目指す育成人材の類型や支援対象などが多様化しており、また産業のエコシステム全般を考慮した人材育成を拡大していることを確認した。従来の韓国半導体人材育成政策は、人材需要が高く、資金余力がある大型IDMが自社が求める人材像を育成し独自技術などを習得させるための教育課程の設立を教育機関に依頼し、設置や運営費用を支援する契約学科を中心に展開されてきた。2006年にサムスン電子と成均館大学校が初めて半導体分野における採用連携型契約学科を設立して以来、採用条件付き契約学科は大型IDMのニーズに合わせて実務型中級人材を中心に育成してきた。契約学科は、2003年に韓国政府が産学協力法を改正して契約学科設立に対する法的根拠を整備した上で設立・運営されることができた制度である。しかし、半導体産業の発展において人材供給不足に対する国レベルの戦略策定が必要であるという認識が広がり、韓国政府は2022年に「半導体人材養成方案」を策定し、初級や上級人材の育成拡大及び人材育成インフラを造成するために公的資金の直接的な投入に基づいた政策支援を拡大している。半導体人材育成のための政策推進のために推進体制も既存の教育部中心から半導体産業人材育成に関連した5省庁がそれぞれの役割に合う育成事業を展開する仕組みに改編し、技術研究、産業界の需要対応、中小企業支援、労働需給など多様な側面を考慮した総合的な人材育成を図っている。具体的に韓国政府が推進している人材育成事業の類型は、大きく①製造企業向けの中級人材育成事業、②(IDM企業の)協力会社向けの初級人材育成事業、③工程特化型の中級人材育成事業、④技術研究型の上級人材育成事業に分類できる。このように多様な類型の人材育成支援事業を展開し、既存の実務型中級人材の育成を主に目指していた契約学科の限界の克服を図っていることを確認した。
最後に、第4章では、第1章から第3章の調査内容と結果に基づき、韓国の半導体人材育成施策の意義を確認した上で、日本が今後半導体人材の育成を推進する上で留意すべき3つの点を導き出した。まず、韓国では、人材の早期確保と流出防止のための官民連携の教育体制が構築されている。韓国政府と主要企業は、優秀な理工系人材を大学入学段階から半導体産業へ誘導するため、金銭的支援を提供する代わりに、採用を確定した採用連携型契約学科制度を設けている。最近、日本でも地域半導体人材の流出が問題となっていることから、優秀な人材を地域に定着させる方策を官民で検討する必要があると思われる。次に、韓国では、IDMを中心とした契約学科による中級人材の育成だけでは、産業全体の発展に限界があるとの認識から、地域内のサプライチェーン確保のため、初級・上級人材までバランスよく育成する傾向が拡大している。また、その過程で、企業も人材の確保と育成のための独自の取り組みを積極的に展開している。日本においても、全ての人材類型の育成体制は整備されているが、育成した人材を即戦力として活用するためには、企業が教育に積極的に参加できる環境を整えることが必要である。最後に、韓国では、半導体産業の均等成長と地域間の均衡発展のために、地域別の半導体拠点を整備し、拠点間の連携を強化している。最近、日本でも拠点大学体制を基盤とした人材育成策を推進しているが、その過程で地域間あるいは国家レベルの教育・研究協力が行われない場合、半導体産業全体の均衡ある発展が阻害されるおそれがある。したがって、拠点大学体制を基盤としつつ、政府機関や中央研究所などが地域間の研究、技術、人材、インフラなどの連携を定期的に推進する仕組みも同時に構築する必要があると考えられる。さらに、その過程で、地域の人材が外部に流出せず、地域企業に流入するよう、誘因策の策定も並行して検討すべきであると考えられる。