人によってはアルコールで損傷した肝臓細胞が多くの活性酸素を生成し、これが細胞死につながり、炎症を引き起こすことがある。(2025年9月25日公開)

アルコール性肝疾患 (ALD) は、過度の飲酒によって発症する。肝臓はアルコールを分解する機能を持つが、処理できないほどの量のアルコールを飲むと、肝臓は深刻なダメージを受ける。
ALDの約5分の1は、アルコール関連脂肪肝炎 (ASH) というさらに重篤な疾患に進行し、最終的には肝硬変や肝不全と呼ばれる肝臓の瘢痕化につながることがある。
そのため、疾患の悪化を防ぐには、早期発見と早期治療の開始が重要になってくる。ヘビードリンカーであっても、肝臓疾患を発症する者とそうでない者がいる。だが、医師たちも長い間その理由はわからなかった。
しかし最近、韓国の研究チームは、飲酒による肝臓損傷と炎症を引き起こす詳細な分子プロセスを発見し、Nature Communications誌に発表した。
アルコールがASHを引き起こす仕組みを解明するため、チームはマウスの肝細胞を用いて、様々な量のエタノールについて実験を行った。
チームは3つの異なるモデルを用いた。1つは1回の大量エタノール投与。1つは2週間の4.5%エタノール慢性投与。そしてもう1つは2週間のエタノール慢性投与の後にエタノール大量投与を行うというものであり、これは患者の慢性ASHを模倣している。
これらの実験から、研究チームは、アルコールによって損傷を受けた肝細胞が活性酸素種 (ROS) を過剰に生成し、それが細胞死を招き、炎症を引き起こすという新たな機序を発見した。
また、肝臓内の特殊な免疫細胞であるクッパー細胞が、肝細胞との相互作用によって、炎症を活発化させ、あるいは抑制する一種のスイッチとして機能することも発見した。
この研究は、アルコールを長期にわたって摂取するとグルタミン酸トランスポーターであるVGLUT3の量が肝細胞内で増加し、グルタミン酸が蓄積することを示した。グルタミン酸はアミノ酸であり、通常は、細胞シグナル伝達とエネルギー利用に使われる。だが、過剰に摂取すると毒性となる。大量摂取すると、その後、カルシウム濃度が急上昇し、グルタミン酸の放出が促される。
このグルタミン酸はクッパー細胞上のmGluR5受容体を活性化し、ROS生成を増加させ、連鎖反応を引き起こし、肝細胞を損傷して炎症を引き起こす。
研究チームはまた、損傷した肝細胞とクッパー細胞が、直接接触点を形成できることを発見した。これは脳のシナプスに似ており、チームは「疑似シナプス」と呼んでいる。チームは論文の中で、これは肝臓生物学において初めての発見であると述べている。この接触により、2種類の細胞は直接情報のやりとりを行い、受動的に死滅するのではなく、損傷信号を送信する。
これは、脳外であっても、細胞間の直接的な接触によって信号が伝達され、死滅した肝細胞がこの接触を通じて炎症を引き起こすと同時に、治癒反応を誘発することを示唆するものである。
動物実験では、VGLUT3、mGluR5、またはROSを生成する酵素NOX2の活性を阻害することで、アルコールによる肝臓の損傷を軽減することができた。ヒトALD患者の血液と肝組織を分析したところ、同様のプロセスが確認された。
韓国科学技術院 (KAIST) 医学工学大学院のチョン・ウォンイル(Won-Il Jeong) 教授は「これらの発見は、将来、ASHの早期診断と治療で新たな分子標的となるかもしれません」と語った。