【AsianScientist】 うつ病が精神疾患でもあり免疫疾患でもある可能性

研究チームは、一般的でありながら診断が難しいタイプのうつ病には、免疫系の過剰活性化が潜んでいる可能性を発見した。(2026年3月24日公開)

うつ病は数十年もの間、精神疾患と考えられてきており、主に脳内の化学物質の不均衡を標的とした治療が行われてきた。世界中で数百万人もの人々がうつ病に苦しんでいるにもかかわらず、客観的なバイオマーカーは未だ存在しない。診断は主に症状に頼っているが、個人差が大きい。韓国科学技術院 (KAIST) と仁荷大学校の研究者たちは、特定のタイプのうつ病では免疫系が過剰活性化状態となり、脳の発達とストレス反応に影響を及ぼす可能性があることを明らかにした。

Advanced Science誌に発表されたこの研究は、典型的な不眠症や食欲不振ではなく、過眠と過食を特徴とする非定型的な症状を示す大うつ病性障害に注目した。幻聴や認知の歪みといった精神病症状を伴う場合、このタイプのうつ病は従来の抗うつ薬を用いても診断と治療が困難になる。非定型うつ病はうつ病症例の最大40%を占め、特に若い女性に多い。

その生物学的性質を解明するにあたり、研究チームはマルチオミクスを採用した。7人の女性患者と10人の健常対照群について各人の血液中の免疫細胞を分析し、血漿中のタンパク質濃度を測定し、患者自身の細胞からオルガノイドと呼ばれる小型脳モデルを培養した。

研究チームは、患者の免疫系が過剰活性化していることを発見した。白血球の単一細胞RNAのシーケンス解析を行ったところ、炎症を促進する好中球や単球などの自然免疫細胞が急増している一方、T細胞やB細胞などの獲得免疫細胞が減少していること分かった。

血漿中では、免疫応答を増幅させる補体タンパク質C5などの免疫関連分子に加え、DCLK3やCALYなどの神経伝達に関与するタンパク質の濃度が上昇していることも分かった。DCLK3はニューロンがストレスに耐え支援をすることが知られており、統合失調症や双極性障害と関連する。一方、CALYは気分や意欲に重要な経路であるドーパミンシグナル伝達を制御する。これらの研究結果を総合すると、神経系と免疫系が同時に異常に活性化されることが示唆される。

これらの変化が脳に直接与える影響を理解するため、研究チームは患者から採取した血液細胞を幹細胞に再プログラムして脳のような組織を形成するという手法を使い、脳オルガノイドを検査した。患者由来の脳オルガノイドは対照群のものよりも成長が遅く、神経発達のパターンに異常が見られた。慢性ストレス状態を模倣するために使用されるストレスホルモンであるデキサメタゾンに曝露させたところ、患者の脳オルガノイドははるかに劇的な遺伝子変化を示した。このことから、細胞レベルでストレスに対する脆弱性が高まっていることが分かった。

この研究は小規模コホートを対象として実施されたが、視点の転換をもたらすものであった。特定のタイプのうつ病を引き起こす中核的メカニズムとして「免疫神経軸」の不均衡が特定されたのであるが、この生物学的関連性は、うつ病を単なる精神疾患と捉える従来の見解とは異なっていた。これは体の炎症反応は神経の健康に直接関連し、調節不全のサイクルを生み出していることを示唆するものであった。

KAISTのジンジュ・ハン (Jinju Han) 助教授は、「この結果は、精神医学研究のための新たな精密医療モデルを示しています」と語る。 「これがバイオマーカーの発見と新薬開発にうまくつながると予測できます。」

次の重要なステップは、DCLK3、CALY、C5などの候補となるタンパク質を大規模で多様な患者集団で試験し、これらの分子シグナルの再現性と臨床的意義を調べることである。検証されれば、これらのタンパク質は治療反応を予測するためのバイオマーカーとして、あるいは精密精神医学への橋渡しを確認するバイオマーカーとして役立つことであろう。

  • アジア・太平洋総合研究センター
  • Science Japan
  • 客観日本
上へ戻る