2026年5月26日 安 順花(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
韓国政府は国家戦略技術体系の全面的な見直しを行い、今後5年間で60兆ウォン以上を重点投資する方針を明らかにした。韓国科学技術情報通信部(MSIT)は、2024年4月27日に開催された国家科学技術諮問会議において、「国家戦略技術体系高度化方策(案)」が審議・議決されたと発表した。
国家戦略技術とは、外交・安全保障上の重要性を有し、国民経済や関連産業への影響が大きく、新技術・新産業の創出を支える基盤となる技術を指す。韓国政府は2022年10月に「国家戦略技術育成方策」を策定し、半導体、AI、量子などを含む12分野・50の重点技術を選定した。その後、2023年9月施行の特別法に基づき、基本計画(2024~2028年)を策定し、国家主導で研究開発投資とプロジェクト支援を進めてきた。
今回の見直しの背景には、AIトランスフォーメーション(AX)の急速な進展、技術安全保障の重要性の高まり、技術融合の加速がある。従来のような個別技術の選定から、技術間の連携・融合によるイノベーションエコシステム構築へと政策の重心が移行した点が特徴である。また、注力・最先端分野だけでなく、それを支える基盤技術まで視野に入れている点も注目すべきである。
MSITは産学の意見を踏まえながら検討を進め、省庁間で重複していた管理体制を整理するとともに、以下の3つの国家ミッションを設定した。
これに基づき、国家戦略技術は従来の12分野から10分野へ集約される一方、重点技術は50から55へ拡充され、「NEXT国家戦略技術」として再編された。
| AIトランスフォーメーション先導 | |
|---|---|
| ① 人工知能(5) | AIインフラ高度化、効率的AI学習、先端AIモデリング・意思決定、安全・信頼AI、バーティカルAI |
| ② 先端ロボット・モビリティ(4) | ロボット部品・プラットフォーム、ロボット知能技術、AI製造、自律走行システム |
| ③ 次世代セキュリティ・ネットワーク(8) | データ・AIセキュリティ、デジタル脆弱性分析・侵害対応、産業セキュリティ・ブロックチェーン、6G、5G高度化(5G-Adv)、衛星通信、AIネットワーク、次世代通信部品 |
| 通商・安全保障主導権 | |
| ④ 半導体・ディスプレイ(10) | 次世代メモリ半導体、高性能・低電力AI半導体、半導体先端パッケージング、化合物電力半導体、次世代高性能センシング、国防半導体、半導体素材・部品・装備、無機発光ディスプレイ、次世代OLED、ディスプレイ素材・部品・装備 |
| ⑤ 先端バイオ(7) | 合成生物学・バイオ製造、遺伝子・細胞治療、次世代ワクチン、バイオデータ・AI、バイオ人工臓器・血液、グリーンバイオ、脳‐コンピュータインターフェース(BCI) |
| ⑥ 次世代電池(3) | リチウムイオン電池、次世代二次電池、電力貯蔵システム(ESS) |
| ⑦ 宇宙航空・海洋(6) | 再利用可能ロケット、衛星システム・搭載体、宇宙観測・探査、先端航空ガスタービンエンジン・部品、ドローン・アーバンエアモビリティ(UAM)、グリーン・自律運行船舶 |
| 未来革新基盤 | |
| ⑧ 革新・未来素材(2) | 革新・持続可能な素材、未来素材および設計・評価プラットフォーム |
| ⑨ 未来エネルギー・原子力(7) | クリーン水素生産・貯蔵・運送・活用、小型モジュール炉(SMR)、先進原子力システム・廃棄物管理、核融合、知能型電力網、再生可能エネルギー、二酸化炭素回収・利用(CCUS) |
| ⑩ 量子(3) | 量子コンピューティング、量子通信、量子センシング |
出典: 韓国科学技術情報通信部
今回の再編では、産業構造の変化や技術融合動向を反映し、技術体系の整理が図られた。従来の「先端ロボット・製造」と「先端モビリティ」は「先端ロボット・モビリティ」へと統合された。また、「次世代通信」と「サイバーセキュリティ」は「次世代セキュリティ・ネットワーク」へと統合された。
一方で、新たに「革新・未来素材」が追加された。これは、サプライチェーン強靭化の観点から材料技術の重要性が高まっていることを反映したものである。
また、AIデータセンターの拡大に伴う電力需要の増加やエネルギー自立の必要性を背景に、従来の「水素」、「次世代原子力」分野は「未来エネルギー・原子力」として拡張された。「二次電池」も電力貯蔵システム(ESS)を含んだ次世代電池へ拡張された。
重点技術では、AIインフラ高度化、核融合などAXやエネルギー基盤の強化に向けた分野が新たに加えられた。また、技術安全保障の観点から、国防半導体、バイオ人工臓器・血液、脳-コンピュータインターフェース(BCI)、ドローンなどが重点技術として選定された。
韓国政府は国家戦略技術育成のため、関連分野への研究開発予算を今後5年間で60兆ウォン以上に拡大する方針を示した。2026年度の同予算は前年比30%増の8兆6000億ウォンとされており、2027年以降はAIインフラ、次世代AI技術、未来エネルギー、科学技術とAIの融合領域に重点投資が行われる予定である。
さらに、国家ミッションに直結する事業については、「国家戦略技術育成法」に基づき国家研究開発プロジェクトとして重点支援される。これに加え、官民共同の「NEXTプロジェクト」や、地域特化型戦略技術の育成も進められる。
国際協力の面では、韓米間における新興技術分野の連携を強化するとともに、多国間の共同研究や政策協調を推進する。また、技術流出防止のための省庁連携体制の整備や研究セキュリティの強化も図られる。
加えて、産学官が参加する「国家戦略技術未来対話」を通じて中長期アジェンダを策定し、政策企画や技術評価にAIを活用する方針である。さらに、技術動向や安全保障リスクに迅速に対応するため、科学技術早期警報システム(Tech-EWS)の構築も進められる。
今回の見直し案は、AIを中心とする産業構造変革、サプライチェーンや技術安全保障の強化を同時に進めるものであり、今後の補完検討を経て2026年6月頃に最終確定される予定である。