2021年09月
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アストロサイト、学習と記憶処理で神経回路の維持に一役 韓国で研究

脳の大掃除の主役は、アストロサイト(astrocyte=星状膠細胞)である。学習や記憶の妨げとなる過剰な結合を取り除いてくれる。

SARS-CoV-2感染時に肺障害を引き起こすマクロファージのサブタイプの特定(写真提供:KAIST)

AsianScientist - 成人の脳のニューロン(神経細胞)間に何兆ものシナプス(神経細胞間の接合部)が形成されると、アストロサイトと呼ばれる細胞が、からまりを整理する。韓国の科学者らは英科学誌 Natureにネイチャーで、アストロサイトは不必要なシナプスを取り除き、学習と記憶処理に必要な神経回路の維持を助けることを発表した。

新しい情報を学んだり、スキルを習得したりするには、繰り返しが重要である。繰り返すことにより脳に信号が送られ、重要な情報を覚えるようになる。この過程でシナプスが発芽して強化され、ニューロンが互いに連絡するための結合部として機能する。

しかしながら、現在行っている学習活動にはあまり重要でないと見なされるシナプスは、通常、脳によって除去される。研究者らは長い間、シナプスを除去するのは脳の最前線の免疫細胞であるミクログリアであり、貪食(どんしょく)と呼ばれる過程を通じてシナプスを食べると考えていた。しかし、今回の研究から、星状膠細胞と呼ばれる星型の細胞が発達中の脳のシナプス結合を刈り込むことも明らかになった。

韓国科学技術院(KAIST)、韓国脳科学研究所、大邱慶北科学技術院のチームは成人の脳が整理される仕組みを理解するために、分子センサーを使用して、マウスモデルの貪食シナプスを検出した。

チームが発見したのは一般的に受け入れられている説とは異なるものだった。仕組みの中心を担うのはアストロサイトであり、それが過度の結合を排除していたのだ。分子センサーは貪食されたシナプスと貪食されなかったシナプスについて異なる信号を点灯し、研究者はどの程度のシナプスが除去されたのか定量化することができた。

興味深いことに、アストロサイトはミクログリアよりもはるかに多くのシナプスを除去しただけでなく、どちらの細胞も、抑制性結合よりも有意に多くの興奮性結合を除去した。

抑制性シナプスはニューロンからの電気信号送信を抑制するが、興奮性シナプスは信号送信の引き金になる。興奮性シナプスと抑制性シナプスの適切なバランスは、記憶と可塑性、あるいは新しい情報への脳回路の適用性にとって重要である。

シナプス数の変化は神経疾患に関連していることから、研究者たちは脳機能の調節におけるシナプス除去の役割についてさらに調べた。アストロサイトがシナプスを除去することを可能にする遺伝子に遺伝子ノックアウトを行った後、マウスの脳は結合過剰の勢いが増した。損なわれたシナプスがからまり合う中で、研究者らは接合部を通る信号伝達が低下し、そのために長期的な可塑性と記憶形成が弱まっていることを発見した。

研究の焦点は学習と記憶のための脳領域であったが、シナプス除去の速度は通常の結合パターンを維持することを目的として、神経回路全体で異なる可能性がある。KAISTのチョン・ウォンソク (Chung Won-Suk) 助教授によると、統合失調症や認知症などの神経障害のヒントを与えてくれる可能性があることから、チームは他の回路でのシナプス除去について調べるという。

チョン助教授は「私たちの調査結果は、学習中や記憶中、そして病気における神経回路の変化を理解する上で深い意味を持っています。シナプスの結合性を回復するために星状膠細胞の貪食を調節することはさまざまな脳障害を治療する上での新しい戦略となるかもしれないと考えると、なかなか面白いと思います」と話している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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