2022年03月
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「追いかけから先端技術トップ国家に変換」次期韓国大統領・尹錫悦の5大科技公約

3月9日に投票が行われた韓国大統領選で、保守系野党候補の「国民の力」尹錫悦(ユン・ソクヨル、61歳)前検事総長が10日、左派与党「共に民主党」候補の李在明(イ・ジェミョン、57歳)前京畿道知事を破り、当選を確実にした。就任は5月10日で、5年ぶりに保守政権が誕生する。

尹氏の新政権では科学技術政策にどのような変化が生じるだろうか。2月8日、「科学技術が大韓民国の未来を変える」と題した討論会で行った尹氏のスピーチ等に基づき、尹氏の科学技術の5大公約を紹介する。

JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈

尹氏の科学技術の5大公約

  1. ① 民・官科学技術委員会を新設し、科学技術に基づく国政運営をする
  2. ② 政治と科学技術政策を分離させ、国策研究機関の政治中立を保障する
  3. ③ 自由な研究環境を作り、支援は強化するが干渉はしない体制を整える
  4. ④ 未来を先導する研究に対し、10年以上の長期支援を行う
  5. ⑤ 若手の科学技術人材への支援を強化し、チャンスを与え挑戦を応援する

尹氏は討論会で、研究の基盤が弱い韓国は今まで先進国を追いかける方法で、発展し続けてきたが、「追いかけ」ではいつまでも先頭に立つことができず、「世界初」を作り出すことが大事であると指摘し、今までの科学技術システムを根本的に変え、研究環境から科技イノベーションまで大胆に改革し、「科学技術追いかけ国から先端技術トップ国家に変換する」とのビジョンを掲げた。

① 民・官科学技術委員会を新設し、科学技術に基づく国政運営をする

第一歩として、政府の科技リーダーシップを強化すべきと強調し、そのためには、大統領直属の科学技術委員会が必要であり、研究者、開発者、企業現場の専門家、科技に詳しい政治家で構成された民官協同委員会を通じ、科技に対する戦略ロードマップを制定する必要があるとした。また、科学技術専門家を政府の要職に登用し、科学技術が中心となる国政運営に力を入れるとした。

② 政治と科技政策を分離させ、国策研究機関の政治中立を保障する

政治と科学技術政策の徹底した分離が重要と訴えた。この政策は、文在寅政権が政治を科学技術領域に取り入れ、脱原発政策を進めたことで、エネルギー供給が不安定になり、温室ガスの削減も難しくなったことが背景にあるとみられる。尹氏は世界最強レベルであった原発産業も大きなダメージを受けたと批判し、政治の判断が技術政策に影響を与える体制を変えるとした。国策研究機関の政治中立を保障し、専門性に対する基準を明確にするとも強調した。

また、国家長期研究事業制度を新設し、韓国の未来に必要である長期研究課題を設定し、政権交代の影響を受けずに続けられるようにするとした。長期研究経費については、安定化した研究支援を図るため、計画初期から目標達成時点までの支援規模を予め明確にする必要があると述べた。

③ 自由な研究環境を作り、支援は強化するが干渉はしない体制を整える

続いて尹氏は自由な研究環境を実現し、政府による支援を強化しつつも干渉はしない体制を作るとした。研究費の使用もより自由にし、評価は客観性・透明性を伴うものにすると述べた。また、グローバルR&Dプラットフォームを構築し、国際共同研究を活性化し、グローバル技術連携を強化するとした。科技に特化した大学、国策研究機関、大学の原発技術研究所とともに融合・オープン型研究プラットフォームを構築し、産学研連携と、共同研究、融合研究に新しい活力を取り入れるとした。

④ 未来を先導する研究に対し、10年以上の長期支援を行う

尹氏によれば、韓国の現存の研究管理システムは、研究費の管理及び政府による評価の便利さにフォーカスがあたえられ、研究者の目線でのアプローチが足りなかったため、評価が難しいイノベーション性が高い課題、挑戦的な課題は不利益を受けることが多かったと指摘した。従って、科技発展の妨げになる現存の研究管理システムを改革し、失敗に寛大で、冒険と挑戦を支援する方向に変えると述べた。

未来を先導する研究は、10年以上の長期支援を可能にするとした。特に、科学技術で高齢化、低下する出産率、感染症、微細ホコリ、カーボンニュートラルなどの難題と素材、部品、設備の競争力の課題を解決するとし、関連分野に研究開発費を優先的に投入するとした。更に、融合・オープン型研究プラットフォームで研究者、産業界、国民の知恵を借りつつ、国家課題への対案を共に考え、政府はそれを支える役割を果たすと表明した。

⑤ 若手科技人材への支援を強化し、チャンスを与え挑戦を応援する

尹氏は優秀な科技人材を多く確保している国が将来的には経済主導権を握るようになるとし、最先端技術・分野別のトップ大学と企業がともに運営する専門教育課程を開設し、ハイレベル人材を育成するとした。また、若手科技人材が実力を思う存分発揮できるよう支援し、研究機会を多く賦与し、正当な評価を保障し、それに伴う報奨体系を作るとした。

このほか、若手科技人材が成長し続けるように、国策研究事業や国際研修に参加させ、政策を制定する際に科技人材の声を積極的に反映し、研究経歴制度と研究事業費の支援システムを改革するとした。尹氏は今までの産業化は無から有を作る過程であり、そのおかげで韓国は10大経済強国に成長したが、これからはイノベーションが必要であり、基礎研究と原発技術強国こそがグローバルリーダーになると強調した。

筆者は、これらの公約の中で、研究管理システムの改革がこれからの韓国の科学技術発展の鍵になると思った。韓国においては基礎研究の弱さは長年の課題として指摘されてきたが、研究者の能力や資金投入の不足よりも、若手そしてリスクの伴う大胆な研究が支援される環境になっていなかった。若手研究者でも実力が正当に評価され、かつ10年を超える長期プロジェクトも安心して研究ができる環境に変われば、学問レベルだけではなく、国家の課題を解決できる方法として科学技術が活用されると期待される。

◇ 尹錫悦(ユン・ソクヨル)
1960年12月18日ソウル生まれ、61歳。
任期:2022年5月10日~2027年5月9日(予定)
ソウル大学法学部学士、ソウル大学大学院法学科修了。
1991年33回司法試験合格、1994年の大邱地方検察庁検事をはじめ、26年間検事一筋、全国の地方検察庁でキャリアを積んだ。2017年には59代ソウル中央地方検察庁検事長、2019年には検事総長に就いた。政界捜査を担う特殊部での経験が長く、文在寅政権の検察改革に激しく抵抗した。2022年3月の韓国大統領選に立候補し、当選を確実にした。

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