韓国の浦項工科大学校(POSTECH)は2月11日、同校の研究チームが、海洋生物由来の材料を用いた、がん細胞だけを集中的に攻撃する「爆弾のような」がん治療薬を開発したと発表した。この研究の成果は学術誌Advanced Healthcare Materialsに掲載され、表紙画像に採用された。
POSTECHのチャ・ヒョンジュン(Cha Hyung Joon)教授らが率いる研究チームは、慶北大学校(Kyungpook National University)のチームと共同でこの治療薬を開発した。近赤外線レーザーを照射した特定の部位のみで熱を発生させて抗がん効果を持つ一酸化窒素(NO)を生成し、同時に抗がん剤を放出する。光温熱・ガス・化学の3つの療法を1つにした画期的な「トリモーダル」(trimodal)治療となる。
(提供:POSTECH)
がんの光温熱治療に用いられる金属ナノ粒子や炭素、合成高分子等の材料は生分解性が低く、全身毒性のリスクを生じさせる。また、光熱変換効率が低いことも治療の効率化を妨げていた。
研究チームは、ホヤ等の尾索類の体内で光と電子の移動に関与するカテコール-バナジウム複合体(catechol-vanadium complex)をイガイが持つイガイ接着タンパク質(mussel adhesive protein: MAP)と組み合わせることで、光により活性化される粘着性の「ナノ爆弾」を開発した。これらのナノ粒子に近赤外線レーザーを照射すると5分以内に温度が50度まで上昇し、約50%という光熱変換効率を達成できる。ナノ粒子はMAPの強い粘着性により長時間がん細胞にとどまる。さらに生体適合性と生分解性に優れているため、光とナノ粒子を用いた治療の安全性の課題を解決できる。
動物モデルを用いた前臨床試験では、光温熱治療の単独治療の場合、治療後15日で腫瘍が再び増殖したが、このナノ爆弾を用いたトリモーダル治療では、約1カ月間腫瘍が認められず、治療効果を延長できることが分かった。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部