韓国の浦項工科大学校(POSTECH)の研究チームが、イガイ(二枚貝の一種)の接着タンパク質(mussel adhesive protein:MAP)を用いて、縫合なしの植皮術(皮膚を採皮し創傷などへ貼付・縫合する手術)を可能にする生体接着剤を開発した。術後の瘢痕(はんこん=傷痕)も最小限にするという。6月16日付け発表。研究成果は学術誌 Chemical Engineering Journal に掲載された。
チャ・ヒュンジュン(Cha Hyung Joon)教授らが率いる研究チームは、MAPのコアセルベート(液体中で形成される水に溶けない物体)に2種類の薬(アラントインと上皮増殖因子)を導入することにより、この生体接着剤を作成した。この接着剤を創傷部につけると、創傷治癒の段階に応じてこれらの薬が逐次放出され、皮膚を再生する。
縫合を用いた従来の植皮術と比較すると、この新たな生体接着剤の方が、創傷がより効果的に回復した。
イガイの接着タンパク質 を用いた生体接着剤のメカニズム
(提供:POSTECH)
この生体接着剤は、創傷部に残る瘢痕を最小限に抑えられることに加え、生体材料であるMAPを用いているため人体に無害である。MAPを用いた生体接着剤の技術は韓国の企業ネイチャー・グルーテック(Nature Gluetech)に技術移転されている。コアセルベートを用いた医療用接着剤は現在、実用化に向けた開発が進められているという。
チャ教授はこの新たなシステムについて「組織の再生を必要とするさまざまな患部への移植に応用できる」と期待を表明した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部