韓国の基礎科学研究院(IBS)は、脳内のアストロサイト(星状膠細胞)の尿素回路が記憶障害に関与する仕組みを明らかにし、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease:AD)の新たな治療標的を提示する新たな研究を紹介した。6月23日付け発表。この研究成果は学術誌 Cell Metabolism に報告された。
IBSのC. ジャスティン・リー(C. Justin Lee)博士が率いる研究チームは2020年にアストロサイトがADに関与していることを発見し、アストロサイトの反応の根本にある分子的なつながりをさらに解明するための研究を続けてきた。
今回、チームは、ADの脳内 のアストロサイトで、アミロイドβの凝集体を除去して尿素に変えるために尿素回路の「スイッチが入る」ことを発見した。
アストロサイトの尿素回路
一方で、アストロサイトの有害な側面として、オルニチンデカルボキシラーゼ1(ODC1)という酵素を産生してオルニチンをプトレシンに変換し、結果的に神経伝達物質γアミノ酪酸(GABA)や有害な副産物を増加させる働きも明らかにした。アストロサイトにより放出された大量のGABAは、神経伝達を阻害し、記憶障害の一因となる。
(提供:いずれもIBS)
研究チームはADのマウスモデルを用いた実験で、ODC1の遺伝子サイレンシングにより、GABSの過剰産生と神経伝達の阻害を止められることを確認した。リー博士は「ODC1をこの疾患の新たな治療標的とし、これを阻害することで記憶力を改善できる可能性がある」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部