韓国科学技術院(KAIST)生物・脳工学科(Department of Bio and Brain Engineering)のチョ・クァンヒョン(Cho Kwang-Hyun)教授率いる研究チームは、がん細胞を破壊することなく正常細胞に回復させることができる過程「cancer reversion」の基本的原則を解明した。6月8日付け発表。この研究の成果は、学術誌Advanced Scienceのオンライン版に掲載された。
遺伝子制御ネットワークにおける入出力 (I/O) 関係
がん細胞の破壊を目的とした現在のがん治療では、がん細胞による耐性の獲得や再発、健康な細胞を破壊することによる副作用といった問題が避けられない。チョ教授らはこの問題を克服するためにcancer reversionの概念を提唱し、特定の種類のがん細胞を用いて実証してきたが、その一般的原則は明らかにされていなかった。
チョ教授のチームは、がん細胞では遺伝子変異によって歪められた「入出力(input-output)関係」が無制御な細胞分裂を引き起こすことに着目し、コンピューターシミュレーション分析に基づき、特定の条件下でこのような入出力関係が正常な関係に回復することを発見した。
チームは分子細胞実験を用いて、この現象が実際のがん細胞でも生じることを確認した。さらに、特定の遺伝子がcancer reversionの標的として他の遺伝子よりも有望であることを示した。これらの標的遺伝子を制御することにより、効果的ながん治療薬を開発できる可能性がある。
チョ教授は「既存の化学療法の限界を克服できる可能性がある治療戦略の基本的原則を解明することにより、がん患者の予後とQOL(生活の質)の両方を改善する画期的な治療薬を開発できる可能性が高まった」と語った。
膀胱がん遺伝子制御ネットワークの修復と膀胱がん細胞の I/O 関係のシミュレーション
膀胱がん細胞の可逆的遺伝子変異と I/O 回復実験による膀胱がん患者の生存率の分析
がん細胞の可逆性原理
研究成果の概念図
(出典:いずれもKAIST)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部