韓国の基礎科学研究院(IBS)は5月9日、同院の研究チームが自閉症スペクトラム障害(ASD)関連の感覚過敏に関与する脳のメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究成果は、Molecular Psychiatryに掲載された。
自閉症患者の約9割は、異常な感覚過敏に悩まされており、日常生活に大きな影響が出ている。しかし、脳のどの領域がこうした感覚機能障害を引き起こしているかは不明であり、治療の妨げとなっている。
IBSのシナプス脳機能障害研究センター(Center for Synaptic Brain Dysfunctions)のキム・ウンジュン(Kim Eunjoon)所長と神経科学イメージング研究センター(Center for Neuroscience Imaging Research)のキム・ソンギ(Kim Seong-Gi)所長率いる研究チームは、NMDA受容体のサブユニットであるGluN2BをコードするGrin2b遺伝子に変異があるASDマウスモデルを研究した。NMDA受容体は、シナプス伝達や神経可塑性に重要な役割を果たしていることから、自閉症との関連で注目されている。
今回の研究では、マウスのGrin2b遺伝子変異が感覚異常などのASD様の表現型を誘導し、特定の脳内メカニズムが重要な役割を果たしているという仮説を立て、これらのマウスの脳の神経活動と機能的結合をモニターした。その結果、前帯状皮質(ACC)の神経細胞活動に増大が認められ、ACCニューロンの活動過剰を化学遺伝的手法で抑制すると感覚過敏が正常化した。これは、自閉症に伴う感覚過敏にACCの活動過剰が大きな役割を果たしていることを示唆している。
また、ACCの活動過剰は、ACCと他の脳領域との機能的接続性の増大とも関連していた。Gin2b変異マウスの感覚過敏には、ACCの活動過剰と他の様々な脳領域との過剰な接続の両方が関与していると考えられる。
キム・ソンギ所長は、「これまでの研究では、単一の脳領域の活動にのみ焦点を当てることが多かった。我々の研究は、ACCの活動だけでなく、ACCとさまざまな皮質・皮質下脳領域との間の脳全体の過剰な接続性も調べており、脳の働きをより全体的に明らかにするものだ」と述べた。
患者に見られるGrin2b遺伝子変異を持つマウスの感覚過敏は、前帯状皮質(ACC)の過活動と、ACCと他の脳領域との間の過接続に関連している
(出典:IBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部