韓国の基礎科学研究院(IBS)は6月11日、同院の研究チームが、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)と高度な機械学習を利用して、脳が持続的な痛みと快感の感情情報をどのように処理しているかを明らかにしたと発表した。この研究成果は、Proceedings of the National Academy of Sciencesに掲載された。
IBSの神経科学イメージング研究センター(Center for Neuroscience Imaging Research)のウ・チュンワン(Woo Choong-Wan)博士らが率いる研究チームは、ソウル大学校(Seoul National University)と米ダートマス大学の研究者らと共同で、MRIスキャナー内の被験者にカプサイシン液とチョコレート液を投与して持続的な痛みと快感を誘発し、その間の脳活動をfMRIで記録する実験を行った。被験者にはまた、主観的な痛みと快感の刻一刻の変化を報告してもらった。
研究チームは、実験で収集した58人の被験者の脳画像データを、機械学習技術を用いて解析し、持続的な痛みと快感の両方に反応する脳領域を特定した。そして、これらの共通の脳部位の脳活動パターンに基づいて、快・不快に関係なく感情体験の大きさを表す「感情強度」と、快・不快の大きさを表す「感情価」を捉える2つの予測モデルを開発した。
これらの予測モデルをテストしたところ、持続的な快感と痛みの感情強度と感情価の情報の予測に成功したことが確認された。感情強度と感情価の予測に役立つ脳活動パターンは空間的に区別可能であり、これらのパターンはそれぞれ異なる脳機能ネットワークと関連していた。このことは、感情強度と感情価の情報が、痛みと快感の相互作用の根底にある脳メカニズムの複数の側面を表していることを示唆している。
この研究の意義についてウ博士は、「同一人物における痛みと快楽の経験を比較する研究はこれまでほとんど行われてこなかった。感情価と感情強度の脳活動パターンは、痛みと快感の相互作用の理解だけでなく、慢性疼痛患者によく見られるうつ病の根底にある脳内メカニズムの理解に貢献することができる」と述べた。
図1. fMRI実験の概要
図2. 快感と痛みに関連する感情強度の予測に重要な脳領域
図3. 感情強度と感情価に関連する脳機能ネットワーク
(出典:いずれもIBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部