2025年09月
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PTSDの恐怖記憶消去を阻害するGABAを解明 韓国IBS

韓国の基礎科学研究院(IBS)は7月30日、韓国の梨花女子大学と共同で、アストロサイトが過剰に産生するGABA(ガンマアミノ酪酸)が心的外傷後ストレス障害(PTSD)における恐怖記憶の消去を阻害する仕組みを解明し、その抑制薬が症状改善に有効である可能性を示したと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。

研究は、IBS認知・社会性センターのC・ジャスティン・リー(C. Justin Lee)博士と、梨花女子大学のリュ・インキョン(In Kyoon Lyoo)教授が主導した。チームは、PTSD患者の内側前頭前皮質(mPFC)でGABA濃度が異常に高く、脳血流が低下していることを380人以上の脳画像解析から確認した。症状が改善した患者ではGABA濃度が低下しており、この化学物質が回復における重要な役割を担うことが示唆された。

死後ヒト脳組織とPTSD様マウスモデルの解析により、過剰なGABAはニューロンではなくアストロサイトがモノアミン酸化酵素B(MAOB)を介して産生していることが判明した。このGABAが神経活動を阻害し、恐怖記憶の消去を妨げていた。

研究チームは、IBSで開発された高選択性・可逆性MAOB阻害薬KDS2010をマウスに投与した結果、mPFCのGABA濃度が低下し、脳血流が回復、恐怖反応の消去が可能になった。KDS2010は既にヒトでの第1相安全性試験を終了しており、第2相臨床試験が進行中である。

本研究では、臨床脳スキャンから細胞レベルの機構を特定し、動物モデルで薬効を検証する「リバース・トランスレーショナル」戦略を採用した。共同筆頭著者のウォン・ウージン(Woojin Won)博士は「PTSDの恐怖消去障害における主要な病理学的因子として、アストロサイト由来GABAを初めて特定しました。MAOB阻害剤による新たな治療法の可能性を示す前臨床データを提供できた意義は大きいです」と述べた。

リー博士は「アストロサイト由来GABAを標的とすることで、PTSDだけでなくパニック障害、うつ病、統合失調症など他の神経精神疾患にも新たな治療パラダイムを拓けます」と強調した。

図1. PTSDにおけるアストロサイト由来GABAとKDS2010の治療効果。PTSD患者の脳画像では、前頭前皮質でGABAが異常に高く、脳血流が低下しており、症状の重さと強く相関していることが示された。動物モデルでは、この過剰なGABAが反応性アストロサイトによって産生されていることが判明。これはMAOBの増加とGABA分解酵素ABATの減少によるもので、脳の正常な機能を乱し、恐怖記憶の消去を妨げていた。選択的MAOB阻害薬KDS2010による治療は、アストロサイト由来GABAを低下させ、脳活動を回復させ、恐怖記憶の消去を改善することに成功し、治療の可能性を示している。
(出典:IBS)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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