韓国の基礎科学研究院(IBS)は2月24日、脳内のグリア細胞の一種であるアストロサイトが、ドーパミン信号と神経活動に応答してシナプスを除去し、運動学習に関わる神経回路の再編に関与する仕組みを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。
新しい運動技能を習得する際、脳内では運動を制御する神経回路が再編される。この過程は「シナプス可塑性」と呼ばれ、これまで主にニューロン同士の結合の強化や弱化によって説明されてきた。一方、近年はニューロン以外の細胞であるグリア細胞もシナプスの形成や除去に関与する可能性が指摘されていた。
韓国科学技術院(KAIST)生命科学科のチョン・ウォンソク(Won-Suk Chung)教授と、韓国の蔚山国立科学技術大学(UNIST)のキム・ジェイク(Jae-Ick Kim)准教授らの研究チームは、随意運動や学習に関わる脳領域「線条体」で、アストロサイトがシナプスを除去する役割を担うことを明らかにした。この過程はドーパミン信号と神経活動によって調節され、運動技能の習得に重要であることが示された。

運動学習前後のアストロサイトを介したシナプス除去
研究ではマウスにロータロッド試験などの運動課題を行わせ、学習の進行に伴う脳内変化を解析した。その結果、学習が進むにつれてアストロサイトによるシナプス除去が増加することが確認された。一方、ミクログリアなど他のグリア細胞では同様の変化は見られず、アストロサイトが特異的に関与していることが示された。
研究チームは、アストロサイトに発現する貪食受容体MEGF10が、このシナプス再編の重要な分子であることを特定した。アストロサイトでMEGF10を欠損させたマウスでは、運動皮質と線条体の神経通信に障害が生じ、運動学習能力が低下した。また、シナプスの強化や弱化を担う長期増強(LTP)と長期抑制(LTD)も正常に機能しなかった。

チョン・ウォンソク(Won-Suk Chung)教授(左)と研究参加者
(出典:いずれもIBS)
さらに解析の結果、アストロサイトによるシナプス除去は、神経活動の強さと神経伝達物質ドーパミンの量によって調節されることが分かった。ドーパミンは線条体のD1型およびD2型の中型有棘ニューロンに異なる構造変化を引き起こし、これらの変化はいずれもアストロサイトのMEGF10に依存していた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部