韓国の基礎科学研究院(IBS)は3月10日、日本の沖縄科学技術大学院大学(OIST)との共同研究により、思春期後期の小脳で、持続的抑制の主な担い手がニューロン由来からアストロサイト由来へと切り替わり、この変化が柔軟で精密な運動協調の発達を支えていることを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Experimental & Molecular Medicineに掲載された。
運動協調は、複雑で変化する環境の中で、体の異なる部位の動きを柔軟に組み合わせる能力であり、発達に伴って向上して成人期に成熟するとされる。一方で、その制御に重要な小脳回路は比較的早期に構造的成熟に達すると考えられてきた。このため、回路ができ上がった後もなぜ運動協調が改善し続けるのかは、長く未解明の課題だった。
研究チームは、小脳顆粒細胞に働くGABAによる持続的抑制(トーニック抑制)に注目した。若齢マウス(3~4週齢)と成体マウス(8~12週齢)の電気生理学的記録を比較したところ、抑制の強さ自体は大きく変わらなかったが、その供給源が大きく変化していた。若齢では抑制性ニューロン由来のGABAが主だったのに対し、成体ではアストロサイトがBest1チャネルを介して放出するGABAが主な供給源となっていた。さらに成体では、細胞外のGABAを除去するGABAトランスポーター活性が高まり、ニューロン由来GABAの影響が低下していた。

思春期における小脳顆粒細胞の持続性抑制の変化
研究チームは、約100万個のニューロンからなる小脳神経回路モデルも構築し、この切り替えが情報処理へ与える影響を解析した。その結果、持続的抑制がアストロサイト主導になると、異なる入力に応答する顆粒細胞集団同士の干渉が弱まり、各集団がより独立して信号を処理できることが示された。深層学習を用いた3次元行動解析では、成体マウスは若齢マウスより多様な四肢協調パターンを示したが、Best1遺伝子を欠損した成体マウスではその多様性が見られなかった。この結果は、アストロサイト由来の持続的抑制が、思春期後期における柔軟な運動協調の成熟に重要な役割を果たすことを示している。

概要図
(出典:いずれもIBS)
研究を主導したC・ジャスティン・リー(C. Justin Lee)所長は、この研究を脳発達をニューロンだけで捉える従来の見方を広げ、ニューロンとアストロサイトの相互作用という視点を加えるものだと述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部