韓国科学技術院(KAIST)は6月25日、同院と米ジョージア工科大学の国際研究チームが、原油精製で100年以上使われてきた蒸留工程の一部を置き換え、エネルギー消費を大幅に削減できる膜技術を開発したと発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。

単純な合成膜の支持材が、定常状態で実原油を驚くほど高い選択性で分離する。
(出典:KAIST)
研究チームは、KAISTのコ・ドンヨン(Dong-Yeun Koh)教授とイ・ジェ・W(Jae W. Lee)教授、ジョージア工科大学のライアン・ライブリー(Ryan Lively)教授らが率いた。研究チームは、加熱せず室温で原油を分離できる簡便で安価な膜を実証した。従来の精製所では、原油を350℃超に加熱して気化させ、蒸気を冷却して異なる留分を回収する蒸留法が使われる。世界の原油蒸留は年間約1100TWhを消費し、ギガワット級原子力発電所約130基の年間発電量に相当する。
研究チームは、特殊な選択層を表面にコーティングする従来の発想ではなく、工業用膜の支持材として一般的な多孔質ポリアクリロニトリル(PAN)膜に原油を直接通した。原油が膜を透過する過程で、重質炭化水素が孔壁に選択的に堆積し、孔が徐々に狭まって2nm未満の自己組織化分離チャネルを形成した。原油そのものが分子分離に必要なナノスケールの経路を作る点が特徴だ。
このチャネルにより、ナフサ、ガソリン、灯油などの軽質留分は速く透過し、重質成分は保持された。通常は性能低下の原因とされる膜ファウリングが、高選択分離を可能にする機構となった。PAN膜は28日間安定して作動し、既報の最先端原油膜に比べ約23倍高い原油透過速度を示した。
プロセスシミュレーションでは、従来蒸留の前処理として使うことで、エネルギー消費を31.6%、二酸化炭素(CO2)排出を37.6%、冷却水使用量を20.7%、運転コストを36%削減できるとされた。韓国の精製・石油化学部門全体に導入されれば、温室効果ガス排出を年約1000万t削減できる可能性がある。
コ教授は、HD現代オイルバンクから提供された実原油を用いることで、産業運転に近い条件で技術を検証できたと述べた。イ教授は、大面積膜のモジュール化と長期運転信頼性を高め、精製・石油化学産業で膜プロセスの導入を広げたいとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部