韓国科学技術院(KAIST)は9月6日、同院の研究者らが、金属に直接結合する原子や基本的な配位構造を変えず、周囲の弱い水素結合を調節することで、銅が最も安定した錯体を形成するという従来の傾向を逆転させたと発表した。研究成果は学術誌Journal of the American Chemical Societyに掲載された。
マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛の錯体では、マンガンから銅にかけて安定性が高まり、銅で最も高くなる。このアーヴィング・ウィリアムス系列は各金属の電子構造に由来し、錯体の安定性は金属固有の性質でほぼ決まると考えられてきた。この順序を変えるには通常、金属に直接結合する配位子の設計や配位構造の変更が必要であった。

図1. 金属周辺の水素結合が銅の構造の歪みを制限し、その安定性を選択的に低下させる仕組み
KAIST化学科のペク・ユンジョン(Yunjung Baek)教授の研究チームは、ビタミンB2に含まれるフラビン骨格を基盤とした配位子を用いて金属錯体を開発した。化学構造の一部を変えたフラビン誘導体にマンガンから亜鉛までの金属を組み込み、基本的な配位構造を同一に保つことで、水素結合だけが各金属の安定性に及ぼす影響を調べた。
その結果、水素結合で形成された周囲の骨格が銅周辺の構造を拘束し、銅が安定化のために好む歪んだ構造を取るのを妨げることが分かった。銅は構造の歪みによって通常得られる追加的な安定化の多くを失い、従来とは逆の「反アーヴィング・ウィリアムス傾向」が生じた。この原理は、混合物から目的の金属を選択的に抽出・回収するシステムや、目的の金属がより効果的に働く触媒、生体模倣システムの設計に応用できる可能性がある。

図2. 金属周辺の水素結合が銅の安定性を選択的に低下させ、従来のアーヴィング・ウィリアムス系列を逆転させる仕組み
(出典:いずれもKAIST)
筆頭著者でKAIST化学科修士・博士統合課程のイム・ハヌル(Haneul Im)氏は、デンマークで開かれた配位化学国際会議(ICCC)で成果を発表し、韓国の学生で唯一、最優秀ポスター賞を受賞した。同教授は「各金属に固有と考えられてきた結合安定性の順序を、周囲の環境によって変えられることを示しました」と研究の意義を語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部