韓国の基礎科学研究院(IBS)は9月18日、IBSのシナプス脳機能障害研究センターの研究者らが、自閉スペクトラム症(ASD)の異なるリスク遺伝子変異を持つマウスで、脳の遺伝子活動に相反する二つのパターンを特定したと発表した。研究成果は学術誌Scienceに掲載された。
ASDには1200を超えるリスク遺伝子が関連する。IBSのキム・ウンジュン(KIM Eunjoon)教授率いる研究チームは、遺伝子改変マウス17系統の前頭前皮質から得た1000件以上のトランスクリプトームを分析した。シナプスでの情報伝達に関わる遺伝子の発現が低下し、クロマチンの制御やRNA処理に関わる遺伝子の発現が増加するグループ1と、逆の変化を示すグループ2に分かれた。遺伝子発現やRNAスプライシングなど、複数の分析でもこの区別が確認された。
分類は変異だけで決まらない。17系統中7系統では、同じ変異を持つ雌雄が別のグループに属した。発達段階によってグループが変わる系統もあり、海馬では二つのグループの差は前頭前皮質ほど明瞭ではなかった。さらに205匹のマウスから得た約100万個の細胞核を分析すると、グループ1では一部の神経細胞やグリア細胞の集団が占める割合に、より広範な変化が見られた。
生後早期にフルオキセチンまたはリチウムを投与されたマウスでは、グループ1の一部の遺伝子群の発現が対照マウスのパターンにより一貫して近づいた一方、グループ2の反応はさまざまだった。薬剤は細胞集団の割合の違いを元に戻さなかった。遺伝子発現の変化が必ずしも行動改善につながるわけではなく、両薬剤の臨床的有効性は示されていない。
既存の前頭前皮質データを用い、ASDのヒト40人と定型発達者17人も分析した。ヒトでもシナプス関連遺伝子の活動が相反する二つのサブグループが見られたが、マウスのパターンと同一ではなく、免疫関連経路の変化はヒトでより顕著であった。研究結果は予備的であり、ASDに臨床的な二つのタイプがあることや、個人の症状や薬剤反応を予測できることを示すものではない。共同責任著者のペ・ミヒョン(BAE Mihyun)博士は、異なる変異が限られた数の脳の分子状態に収束する可能性を指摘した。

図1.多様な自閉スペクトラム症リスク遺伝子が、相反する二つの脳の分子状態に収束する。
ヒトの自閉スペクトラム症リスク遺伝子1200超に関連する17種類のマウスモデルのトランスクリプトーム解析と、約100万個の脳細胞を対象とする単一細胞RNAシーケンシングを組み合わせた。その結果、遺伝的要因が多様であるにもかかわらず、相反する二つの脳の分子状態が特定された。グループ1では、シナプス関連遺伝子の発現が低下し、クロマチンの制御とmRNA処理に関わる遺伝子活動が増加した。また、フルオキセチンとリチウムに対する分子レベルの反応はより一貫しており、細胞種の構成にもより大きな変化が見られた。一方、グループ2は逆の分子パターンを示し、薬剤への反応はより多様で、細胞種の構成の変化は比較的小さかった。ヒトの自閉スペクトラム症患者の大脳皮質にも、比較可能なトランスクリプトーム上のサブグループが見られた。この結果は、自閉スペクトラム症の分子レベルでの分類と精密な治療に向けた新たな枠組みを支持する。
(出典:IBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部