2021年10月20日 小岩井 忠道(科学記者)
英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」は10月6日、コンピューター科学と工学の分野別世界大学ランキングを公表した。両分野とも米国と英国の大学の優位は変わらないものの、オーストラリアの大学が両分野で躍進していることをTHEは今年の大きな特徴として挙げている。オーストラリアの大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に対する貢献度を評価したTHEの「インパクト・ランキング2021」(今年9月公表)でも、上位10大学の中に4校が入り、評価を高めている。
コンピューター科学分野では、英国のオックスフォード大学が1位を維持し、ケンブリッジ大学が4位。米国からは2位スタンフォード大学、3位マサチューセッツ工科大学、6位カーネギーメロン大学、7位ハーバード大学、8位カリフォルニア大学バークレー校、10位プリンストン大学と上位10位内に最も多い6校が並ぶ。英米以外では、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ケンブリッジ大学と同じ4位)、シンガポール国立大学(カリフォルニア大学バークレー校と同じ8位)の2校が入った。
シンガポール国立大学以外のアジア・太平洋地域では、12位に清華大学、15位に南洋理工大学、17位に北京大学、26位に香港科技大学、30位に上海交通大学、37位に韓国科学技術院(KAIST)と、中国、シンガポール、香港、韓国の有力大学が上位に並ぶ。躍進ぶりが目立つオーストラリアは、上位100位内に6校が入り、アジア・太平洋地域では中国の7校に次いで多い。特にメルボルン大学が前年の64位から51位、オーストラリア国立大学が65位から56位と順位を上げたのが目を引く。
日本は東京大学の38位が最上位で、上位100位内に入ったのは、京都大学(71位)、東京工業大学(88位)と計3校のみ。上位100位内の大学数では、中国、オーストラリアだけでなく、香港(5校)も下回った。
世界順位 | 前年順位 | 大学名 | 国・地域 |
---|---|---|---|
=8 | 8 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
12 | 12 | 清華大学 | 中国 |
15 | =18 | 南洋理工大学 | シンガポール |
=17 | 28 | 北京大学 | 中国 |
26 | 31 | 香港科技大学 | 香港 |
30 | 35 | 上海交通大学 | 中国 |
37 | 42 | 韓国科学技術院(KAIST) | 韓国 |
38 | 41 | 東京大学 | 日本 |
39 | 43 | 香港中文大学 | 香港 |
40 | 40 | 浙江大学 | 中国 |
=41 | 39 | 香港大学 | 香港 |
=41 | 47 | ソウル大学 | 韓国 |
51 | 64 | メルボルン大学 | オーストラリア |
=56 | 65 | オーストラリア国立大学 | オーストラリア |
=56 | 62 | 国立台湾大学 | 台湾 |
58 | 68 | 中国科学技術大学 | 中国 |
60 | 63 | 南京大学 | 中国 |
64 | 79 | 香港理工大学 | 香港 |
=65 | 54 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
68 | 90 | 復旦大学 | 中国 |
70 | 83 | シドニー工科大学 | オーストラリア |
71 | =71 | 京都大学 | 日本 |
74 | 70 | シドニー大学 | オーストラリア |
=81 | =96 | インド理科大学院 | インド |
=88 | =84 | 香港城市大学 | 香港 |
=88 | ― | 国立陽明交通大学 | 台湾 |
=88 | =96 | 東京工業大学 | 日本 |
=93 | 151-175 | モナシュ大学 | オーストラリア |
電気・電子工学、機械工学、航空宇宙工学、土木工学、化学工学が含まれる工学分野でも、米国、英国の優位はコンピューター科学と同様。1位から4位までをハーバード大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学の米国勢が占め、5、6位に英国のケンブリッジ大学、オックスフォード大学が続く。7、8位も米国のプリンストン大学とカリフォルニア工科大学で、米国、英国以外で上位10大学に入ったのはコンピューター科学分野同様、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(9位)、シンガポール国立大学(10位)の2大学だけとなっている。
最上位の顔ぶれがコンピューター科学、工学とも似たような結果となっている中で、工学分野でも目立つのが、オーストラリアの大学の躍進ぶり。上位100位内に入った大学は、前年の7校から8校に増えた。こちらも中国の11校に次いで、アジア・太平洋地域では2番目に多い。さらにこれら8校はすべて前年より順位を上げているのが目を引く。クイーンズランド大学は88位から66位へと大きく上昇した。
日本は東京大学の34位が最上位で、上位100位内には京都大学(58位)、東京工業大学(77位)、東北大学(82位)とコンピューター科学分野より一つ増えて計4校が入った。しかし、中国、オーストラリアだけでなく、香港(5校)にも数で及ばないのはコンピューター科学分野と変わらない。
世界順位 | 前年順位 | 大学名 | 国・地域 |
---|---|---|---|
10 | =12 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
12 | =9 | 北京大学 | 中国 |
15 | 15 | 南洋理工大学 | シンガポール |
17 | 16 | 清華大学 | 中国 |
28 | 26 | 香港科技大学 | 香港 |
29 | 34 | 浙江大学 | 中国 |
32 | =35 | 上海交通大学 | 中国 |
33 | 42 | 韓国科学技術院(KAIST) | 韓国 |
34 | 32 | 東京大学 | 日本 |
35 | 31 | 中国科学技術大学 | 中国 |
42 | =42 | 香港大学 | 香港 |
=44 | =53 | 復旦大学 | 中国 |
=46 | 39 | ソウル大学 | 韓国 |
=46 | 48 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
51 | =75 | 香港理工大学 | 香港 |
55 | =71 | モナシュ大学 | オーストラリア |
57 | 74 | メルボルン大学 | オーストラリア |
58 | 56 | 京都大学 | 日本 |
59 | =46 | 浦項工科大学 | 韓国 |
60 | 64 | 香港城市大学 | 香港 |
65 | 66 | シドニー大学 | オーストラリア |
66 | 88 | クイーンズランド大学 | オーストラリア |
67 | 61 | 国立台湾大学 | 台湾 |
=69 | 77 | 香港中文大学 | 香港 |
=69 | 67 | 南京大学 | 中国 |
=71 | 81 | 西安交通大学 | 中国 |
74 | 89 | 同済大学 | 中国 |
=77 | 60 | 成均館大学 | 韓国 |
=77 | =71 | 東京工業大学 | 日本 |
81 | 59 | 華中科技大学 | 中国 |
82 | =75 | 東北大学 | 日本 |
83 | 92 | ウーロンゴン大学 | オーストラリア |
=85 | 126~150 | 中南大学 | 中国 |
92 | 100 | アデレード大学 | オーストラリア |
=93 | 101~125 | オーストラリア国立大学 | オーストラリア |
=93 | 90 | 国立清華大学 | 台湾 |
THEは、「教育」、「研究」、「論文引用の影響度」、「国際性」、「産業界からの収入」の五つを評価指標とし、それらをさらに細分化した合計13項目を評価した合計点で世界の大学を順位付けした「世界大学ランキング」を毎年、公表している。分野別大学ランキングは、基本的には同じ評価方法をとっているが、各分野の特徴に合わせて配点の重み付けを少し変えている。
「世界大学ランキング」の評価法は、五つの指標のうち、「教育」、「研究」、「論文引用の影響度」にそれぞれ30%、「国際性」に7.5%、「産業界からの収入」に2.5%という配分比率になっている。「コンピューター科学」、「工学」の分野別ランキングでは、いずれも他の研究者から数多く引用される論文がどれほどあるかを見る「論文引用の影響度」の配分比率が30%から27.5%に下げている。その代わり「産業界からの収入」の比率を2.5%から5.0%に増やしている。「産業界からの収入」は、発明やコンサルタントといった知的活動で大学がどれだけ産業界を支援しているかをみる指標。支援の大きさを評価する方法として大学が産業界から得ている研究収入(教職員数で換算)を見ている。
オーストラリアの大学は、9月に公表済みの「世界大学ランキング2022」でも、メルボルン大学が33位、オーストラリア国立大学とクイーンズランド大学が同じ54位、モナシュ大学57位、シドニー大学58位、ニューサウスウェールズ大学70位と、上位100位内に6校が入っている。今回の分野別ランキングの結果は、「コンピューター科学」、「工学」と産業界への影響がより大きな分野でもオーストラリアの大学の力が上がっていることを示したといえそうだ。
「コンピューター科学」、「工学」両分野でアジア・太平洋地域大学中最も高い評価を得たシンガポール国立大学は、「世界大学ランキング2022」でも世界21位という高い評価を得ている。コンピューター科学分野で8位、工学分野で10位と世界大学ランキングよりいずれも順位を大きく挙げているのは、両分野に関して特に「教育」、「研究」、「論文引用の影響度」で高い評価を得たほか、工学分野では「産業界からの収入」も多いことが理由とみられる。