最大の課題を解決するオーストラリアと日本㊦―CSIRO・若松祐子

2023年6月2日

若松 祐子
オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO) グローバル・グロース部 シニアアドバイザー(日本・韓国・担当)

国際基督教大学(ICU)卒。日米両国で銀行、製造、技術移転、ベンチャーキャピタルでの役職を歴任し、2006年に経営幹部補佐としてCSIRO入り。2011年、アドバイザーとしてCSIROグローバルに加わり、世界市場におけるCSIROの研究連携を強化する戦略的取り組みの構築に取り組む。CSIROの研究チームと協力して、日本、韓国、および南北アメリカ市場での協力を強化。2021年以来、脱炭素化技術における共同作業を支援するために、日本と韓国でのより強力な関与を発展させることに注力。日本と中米で育ち、英語、日本語、スペイン語に堪能。オーストラリアのJapan BusinessWomen's Society委員。

参考:The original English text of this article: Australia and Japan solving the greatest challenges

水素産業ミッション

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の水素産業ミッションは、オーストラリア政府が採択した国家水素戦略のビジョンを達成するために 2021年に開始された。その目的は、2030年までに、国内と輸出の両方のバリュー チェーンを含む商業的に実行可能なオーストラリアの水素産業を通じて、世界的な脱炭素化を支援することだ。

水素産業ミッションは、以下を含む水素の研究、開発、および実証プロジェクトに焦点を当てている。

  • 水素ナレッジセンターの立ち上げ-クリーンで競争力のあるオーストラリアの水素産業の発展を支援し、情報を提供するために共同で設計された知識共有データベース
  • 水素研究開発実証(RD&D)国際連携プログラムを含む科学技術の実現

水素研究開発実証(RD&D)国際連携プログラム

オーストラリアの国家水素戦略(Australia's National Hydrogen Strategy )とCSIROの水素研究・開発・実証報告書(CSIRO's Hydrogen Research, Development and Demonstration report )は、国際的な研究の接続性と知識の共有を促進し、水素の研究開発能力を構築し、業界の発展を支援するオーストラリアの必要性を特定した。その後、CSIROはオーストラリア政府から、水素RD&D連携の機会に関するグローバルレポートの作成と、日本を含む 10カ国の詳細な分析レポートの作成を要請された。

これらのレポートは、2015年にパリ協定と並行して開始された国際イニシアチブであるミッションイノベーションのウェブサイトからアクセスできる。ミッションイノベーションの目的は、政府、公的機関、企業、投資家、学界を結び付けて、世界中で広く手頃な価格のクリーン エネルギーを実現し、パリ協定の目標を達成する。CSIROはミッションイノベーション のメンバーであり、Clean Hydrogen Mission 内の Storage and Distribution の共同リーダーを務めている。

RD&D国際連携プログラムの中心となるのは、世界に向けた研究代表団を結成し、リソースと研究の才能をまとめて共有しようとする国々の間で双方向のフェローシップ プログラムを確立することだ。オーストラリアの研究者コミュニティは、オーストラリアの研究者がオーストラリア政府から資金を受け取り、世界クラスの研究機関や研究所を訪問して 3~12カ月の海外派遣活動を行うことに関心を示している。日本を含め、約30名のオーストラリア人科学者が選ばれる予定だ。

オーストラリア水素研究代表団が訪日

水素研究開発実証(RD&D)国際連携プログラムの一環として、オーストラリア水素研究代表団が2022年12月に日本を訪れた。CSIRO水素産業ミッションの団長、Patrick Hartley博士とグリフィス大学のRosalind Archer博士が率いる代表団は、6つの大学とCSIROで構成された。

2022年12月、産総研福島再生可能エネルギー研究所を訪れたオーストラリア水素研究代表団。筆者は右から4人目。代表団はグリフィス大学、ニューサウスウェールズ大学、ニューカッスル大学、シドニー大学、シドニー工科大学、モナシュ大学の6大学とCSIROで構成された
(提供:CSIRO)

日本訪問中にはオーストレード東京の支援を受けて、代表団は東京のオーストラリア大使館で開催されたセミナーで各機関の能力を紹介し、次のようなさまざまな機関を訪問し、研究交流協力を模索する会議を開催した。

  • 電力中央研究所
  • 東京都市大学
  • 産業技術総合研究所 (産総研) 福島再生可能エネルギー研究所
  • 産総研グローバルゼロエミッション研究センター
  • 物質・材料研究機構
  • 東京大学先端科学技術研究センター(RCAST)
  • 山梨大学

また、代表団は日本の科学技術振興機構(JST)と会談し、日本の若手研究者がオーストラリアを訪問してこの研究者交流を深める方法について話し合った。

脱炭素化は世界的な課題だ。オーストラリア政府と日本政府は、2050年までにゼロエミッション目標を達成するための投資を行っている。これには、オーストラリアのブルー水素プロジェクトの一環として、日本政府のグリーンイノベーションファンドによる日本水素エネルギー(株)への23億5000万豪ドルのコミットメントが含まれている。

過去4年間、CSIROが代表を務めるオーストラリアは、脱炭素化を加速するために、「RD20」(クリーンエネルギー技術と国際連携に焦点を当てたG20各国の主要研究機関による国際会議)の下で (G20)諸国と協力してきた。世界の地政学的環境の変化を受けて、これらの取り組みに、より大きな政府と企業の協力による密接に連携したパートナーシップを重ねることで、両国間の研究協力を強化するのにこれ以上の時期はないだろう。

CSIROは、オーストラリアの国家水素戦略とCSIROのミッション志向のアプローチに基づく研究交流協力が、日本とのつながりと知識共有を刺激し、オーストラリアの水素研究開発能力を構築し、さらに業界の成長を支援すると期待している。その過程で、オーストラリアと日本がパートナーシップを強化し、今日と明日の大きな課題を解決する上で共に重要な役割を果たすことを願っている。

上へ戻る