現在、高病原性のエイビアン・インフルエンザ(一般に鳥インフルエンザとして知られている)株が世界的な問題となっている。このウイルスは、何百万羽もの鳥、他の動物種、そして一部の人間に影響を与えている。
先週、オーストラリア政府は、ヨーロッパ、北米、南米、アジアに旅行する人々に対し、鳥インフルエンザのリスクについて警告を発した。
この警告はSmartravellerのウェブサイトで公開され、インフルエンザワクチンが最新のものであることを確認するようにという忠告がなされていた。旅行に行こうという者に対して、これは通常、今年インフルエンザの予防接種を受けたかどうかということを意味するが、ワクチン接種から3~6か月が経過している場合は、医師に相談すべきとなっている。
しかし、毎年受ける季節性インフルエンザワクチンは、実際には人間が鳥インフルエンザに感染するのを予防しない。では、なぜこの状況で推奨されているのか?
Smartravellerによると、現在、鳥インフルエンザのいくつかの株が流行している。
最も懸念される株はクレード2.3.4.4bと呼ばれ、数十年にわたって流行しているインフルエンザ A 型 (H5、または A/H5) から派生し、数年前に現れた。
クレード2.3.4.4bは野鳥や家禽など、主に鳥類に影響を及ぼす。鳥類だけでなく、農家や養鶏業に携わる人々にも壊滅的な影響を与えている。
近年、クレード2.3.4.4bは変化して一部の哺乳類に感染するようになった。残念なことに、一部の動物に重篤な病気を引き起こしているようである。一部の海洋哺乳類は特に大きな影響を受け、ゾウアザラシやアシカの大量死亡が報告されている。米国では、鳥インフルエンザは乳牛にも広がっている。
動物の症例は数多く見られるのに対し、鳥インフルエンザに感染したヒトの数は比較的少ない。2003年以降、878件のヒトのA/H5N1型インフルエンザ症例が報告されているが、そのうちのごく一部はクレード2.3.4.4bが初めて出現した2020年以降に報告されたものである。報告された症例は感染した動物と濃厚接触した人々であり、ヒトからヒトへ感染することはないようである。
そのため、旅行者のリスクは低いが、生きた動物を扱う市場を訪れる、あるいは食品生産業で野生動物や食用動物に関わる仕事をするために特に旅行する場合、リスクが大きくなることもあろう。
ヒトがH5型インフルエンザに感染した場合、重症度は軽度の結膜炎から致死的肺炎まで、実に様々である。H5型インフルエンザ株は抗ウイルス薬(オセルタミビル、タミフルとして知られる)に反応を見せている。抗ウイルス薬は一般的にはヒトの感染治療薬として推奨されているが、重症患者の死亡リスクを低下させるかどうかははっきりしていない。
これまでに、オーストラリアでは、最近海外から帰国した子供にA/H5型インフルエンザ (2.3.4.4b ではない) の症例が1件報告されている。
クレード2.3.4.4bはオーストラリアを除くすべての大陸で発見されているが、他の鳥インフルエンザ株(A/H7)が今年初めにオーストラリアで報告された。
鳥インフルエンザにはさまざまな系統がある
(Snowboy/Shutterstock)
季節性インフルエンザとは、毎年流行するインフルエンザ株を指す。コロナ禍以降、A H1N1型 (2009年豚インフルエンザ株の子孫)、A H3N2型 (1968 年から流行)、B型という3つの異なるインフルエンザ株が互いの勢力を変えつつ流行している。興味深いことだが、インフルエンザB型の第2株(山形系統)はコロナ禍の最中に消滅したようである。
季節性インフルエンザワクチンには、世界保健機関が毎年推奨するA/H1N1型、A/H3N2型、B型の最新の変異体が含まれている。その効果は中程度で、入院リスクを約40~60%減少させる。
インフルエンザワクチンが示す予防効果は非常に特異的である。季節性ワクチンの場合、ウイルスは毎年非常に小さな、しかしワクチンによる免疫を「逃れる」には十分な変異を起こす。したがって、季節性インフルエンザワクチンはA/H5型インフルエンザに対して何の防御効果も与えない。
現在、鳥インフルエンザが発生する中で旅行者にインフルエンザの予防接種を勧める理由は、季節性インフルエンザワクチンを接種すればA/H5型と季節性インフルエンザ株の両方に同時に感染するリスクを軽減できる可能性があるためである。
同時感染すると、両方のウイルス株の遺伝子コードの「組み換え」が発生するかもしれない。すると、季節性ヒトウイルスの感染性と鳥インフルエンザウイルスの重症度を併せ持つウイルスが生まれる可能性がある。2009年の豚インフルエンザ株は、数年にわたる複数の株の組み換えから発生し、ヒトへの伝染性が高くなった。
はっきりしていることは、H5株を含むワクチンは効果が高く、H5型インフルエンザ株に特有の免疫反応を生み出す。ワクチン製造業者は長年にわたりH5型ワクチンを開発してきたが、今まで、H5型ワクチンを投与したことがあるのはフィンランドだけである。感染した可能性がある動物と密接にかかわる仕事をした少人数のグループに投与したのだ。
現在、H5型ウイルスが人間に及ぼすリスクのレベルは、新しいワクチンプログラムに関連するコストと潜在的なリスクと比較して潜在的な利点が小さいため、特定のワクチンプログラムを必要とするほど十分ではないと考えられている。
季節性インフルエンザワクチンはインフルエンザ感染を予防するだけでなく、ヒトインフルエンザと鳥インフルエンザの同時感染のリスクも軽減する。鳥インフルエンザはともかく、今年のインフルエンザ予防接種を受けていないほとんどの旅行者にとって、旅行計画を台無しにする病気のリスクを減らすことは、予防接種を受ける十分な理由となるはずである。
今シーズンすでにインフルエンザ予防接種を受けた人の場合、コロナワクチンと同様、ワクチン接種後の防御効果は時間の経過とともに弱まるようである。そのため、インフルエンザワクチン接種から3~6か月以上経過して冬に北半球に旅行するならば、主治医からもう一度接種するよう勧められるかもしれない。
ほとんどの旅行者にとって鳥インフルエンザのリスクは小さいものだが、市場で鳥に近づかないようにするなど、賢明な予防策を講じることが望ましい。
(2024年9月24日公開)