オーストラリア国立保健医療研究評議会 (NHMRC) は、飲料水中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物 (PFAS) の許容レベルに関するガイドライン案を発表した。
PFASは分解されにくく、飲料水供給システムなどの環境に残留する可能性があるため、「永久化学物質」としても知られている。
新しいガイドラインの完成は2025年4月の予定である。ガイドラインは義務ではないが、州および準州が政策の参考とすることができる。このガイドラインでは、4つの主なPFAS化学物質 (PFOS、PFOA、PFHxS、PFBS)について、今まで安全とされていた最大値を下げることが提案されている。
PFAS規制を継続的に精査し、更新することは、オーストラリア人の安全を確保する上で重要である。しかし、更新されたガイドラインがオーストラリアの飲料水に大きな影響を与える可能性は低い。オーストラリアの飲料水供給の大部分には、検出可能なPFASは存在せず、あるいは新しい制限値をすでに下回っている。
PFASは脂溶性が高く、分解が非常に遅い化合物である。基本的には炭素原子の長鎖であり、フッ素分子が結合している。
PFASは不活性であり、撥水性・耐熱性を持つ。このような特性を持つため工業用途に最適なものとなっており、消火泡や難燃性材料に使用されている。また、フッ素樹脂加工のフライパンや防汚加工布などといった一般的な家庭用品にも使用されている。
PFASは分解が非常に遅い
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残念なことに、PFASは有用な工業的安定性を持つため、環境中に残留し、人体に蓄積する可能性がある。PFASを摂取すると、その半減期は5年かかることもある。
PFASは体内の脂肪を模倣する可能性があるため、十分な量が体内に蓄積されると健康に害を及ぼすのではないかと懸念されている。
体から除去するのが難しい化学物質が体に蓄積するとしたら、必ず懸念事項となるが、潜在的な健康リスクは低いとされている。2018 年、PFASに関するオーストラリア専門家健康委員会はエビデンスを詳細に検討した。
最も大きな懸念事項の1つは、PFASが血中コレステロール値を上昇させ、心臓病のリスクを高めるかもしれないことだった。しかし、慢性的にかなりの量のPFOAに曝露した人々を対象とした研究では、統計的に有意な心臓病の増加は示されていない。
2018年、オーストラリア専門家健康委員会は次のように報告した。
「これまでのエビデンスからは、オーストラリアで見られるPFAS曝露値が心血管疾患のリスクを高めるかどうかは立証できない... 確立されたリスク要因は... PFASによって引き起こされる可能性のあるものよりもはるかに大きいと考えられる」
がんも懸念されてきた。しかし、専門家委員会は、PFASががんに関連しているという一貫したエビデンスを見つけていない。ある研究からは、PFOAへの曝露により大腸がんの発生率が減少したことさえ判明した。
しかし、新しいエビデンスが明らかになるごとに、PFASが人間の健康に与える影響は、常に検討されている。
オーストラリアは2000年代の初めからPFASを段階的に廃止してきており、それ以来、オーストラリア国民から検出されるPFAS値は着実に低下してきている。
現在、工業用途は段階的に廃止されており、主なPFAS曝露のルートは持続的な環境汚染である。飲料水はPFASの主な発生源ではないが、汚染されたほこりや地下水が貯水池に流れ込むなど、環境が水の汚染源となることもある。
オーストラリアのほとんどの飲料水では、PFASは検出されないか、すでに新しい制限値を下回っている
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オーストラリアの飲料水ガイドラインは、飲料水に含まれるPFASの許容量を制限している。
NHMRC は、ガイドラインの作成の際に使用されたPFASが健康に与えるエビデンスについて、定期的にレビューを行っている。ガイドラインは2018年に最後の更新が行われたが、最新のレビューでは、それ以降に入手可能な追加のエビデンスを検討している。
このレビューでは、特に興味深い進展がいくつか見られた。PFASが甲状腺機能に与える影響に関する研究である。甲状腺ホルモンは代謝、成長、発達を調節するため、甲状腺機能の変化は問題となり得る。
国際がん研究機関(IARC)のPFASとがんに関する最近の裁定も調査が必要だった。IARCは、オーストラリアが規制している4つの主要化学物質のひとつであるPFOSを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」と分類した。しかしIARCは、PFOSがヒトに何らかのがんを直接引き起こすというエビデンスは「不十分」であると指摘した。
IARCは、考えられるあらゆる曝露について化学物質ががんを引き起こす可能性を持つという裁定を下すことができる。しかし、通常の曝露によるがんリスクの評価はしない。
つまり、NHMRCは、飲料水中に存在するPFOS値はリスクであるというエビデンスを再評価する必要があった。
NHRMCは、動物実験におけるPFAS曝露に関するエビデンスを検討し、ヒトの疫学調査を調べた。
動物実験のレビューでは、NHMRCは曝露が動物の健康に影響を及ぼさないPFAS濃度について特に注意を払った。この閾値は、通常、動物にとって安全な値に100分の1の安全バッファーを追加してヒトの制限値を決定するために使用される。
制限値の設定では、ヒトの健康への影響に関するエビデンスが慎重に考慮され、また、飲料水以外の発生源、たとえば食品や吸入粉塵などからのPFAS曝露量の可能性について評価される。
提案されている制限値は以下の通り:
注:PFOSとPFHxSは現在、別々に規制されている(NHMRC)
ガイドラインが健康に大きな影響を与えることはないと考えられる。NHMRCの報告書が示すように、オーストラリアで供給される飲料水の大部分には検出可能なPFASがないか、すでにこれらの新しい制限値を下回っているためである。
たとえば、WaterNSWが飲料水を調べたところ、PFOS値は1.2ng/Lから検出不能の間であることが判明した。PFHxSは1.4〜0.1ng/L、PFOAは基本的に検出不能であり、同様の結果が得られた。
汚染現場近くのボーリング孔のPFAS濃度は高いが、これらは通常、飲料水源としては使用されていない。
オーストラリアのガイドラインは、一部の国際ガイドラインと異なる。ガイドライン案では、区域によって動物とヒトのエビデンスに対する重み付けが異なるため、規制の程度に影響を与えることが指摘されている。
現在、ガイドライン案は一般の意見を募集している。意見提出期限は2024年11月22日である。最終ガイドラインは2025年4月に発表される予定である。
(2024年11月18日公開)