1998年、天文学者が超新星と呼ばれる遠くの爆発する星からの光を観察したところ、宇宙は膨張しているだけでなく、膨張が加速していることを発見した。しかし、この加速の背後には何があるのか?
それはダークエネルギーである。ダークエネルギーとは現代物理学の中でも最も議論され、興味深い失われたパズルの1ピースであり、宇宙全体に均一に浸透していると信じられている謎のエネルギーである。現在最も受け入れられている現代宇宙論のモデルでは、ダークエネルギーは宇宙の膨張を加速させる原動力となっている。
しかし、ダークエネルギーとは無関係な別の説があったらどうなるのか? 超新星のデータを使用した最近の研究は、確かにそのような説がありえることをほのめかしている。その説は、タイムスケープモデルと呼ばれている。
この発見は宇宙に対する私たちの理解を大きく覆す可能性がある。詳しく見ていこう。
現代宇宙論を成り立たせているのは、ラムダ・コールド・ダークマター (ラムダCDM) モデルである。これは、ギリシャ文字の Λ (ラムダ) で表されるダークエネルギーが宇宙の膨張の加速の原動力となっていると説明している。
このモデルによると、銀河は、どの物質とも相互作用することのない重い粒子でできた目に見えないダークマターの網の影響を受けて、一緒に回転する。この冷たいダークマターの影響は、重力を通してのみ観察できる。
ラムダCDMモデルによる宇宙年表
NASA/LAMBDA Archive/WMAP Science Team
ダークエネルギーは宇宙の総エネルギー量の約70%を占めているが、その正確な性質は物理学における最大の謎の1つとなっている。
ダークエネルギーは真空のエネルギーに関連しているかもしれないという考えもあれば、宇宙全体に広がる新しい進化するエネルギーフィールドであると説明しようとする研究もある。
そして、宇宙の膨張を追跡する国際DESI(Dark Energy Spectroscopic Instrument)観測チームが行った最近の研究によると、ダークエネルギーが時間の経過とともに弱まっている可能性があることが示された。
現在の重力理論 (アインシュタインの一般相対性理論) が不完全である可能性もある。おそらく、数百万から数十億光年程度の距離である宇宙規模での重力相互作用を説明するには、拡張が必要なのだろう。
ダークマター、ガス、銀河、星団、超銀河団などの物質は宇宙全体に均一に広がっているわけではない。
しかし、ラムダCDMモデルでは、宇宙は均質かつ等方性であると想定されている。つまり、宇宙規模では、物質の分布は滑らかで均一に見える。全体の規模が壮大なため、塊や隙間があったとしても、取るに足らないものと考えられている。
対照的に、タイムスケープモデルでは、物質の不均一な分布を考慮に入れている。銀河、星団、フィラメント、そして広大な宇宙の空洞からなる複雑な宇宙の網が、宇宙の膨張の解釈方法に直接影響していることを示唆している。
これは、宇宙が均等に広がっていないことを意味する。
タイムスケープモデルによると、宇宙の膨張率は、密度に応じてさまざまな領域で異なっている。
タイムスケープモデルの重要なパラメーターは「空隙率」である。これは、膨張する空隙が占める空間の割合を定量化する。
重力により、空隙は密度の高い部分よりも速く膨張する。空隙には膨張を抑える物質が少ないため、空間は邪魔者なく自由に膨張できる。これにより、ラムダCDMのダークエネルギーに起因する加速膨張を模倣できる平均効果が生まれる。
つまり、タイムスケープモデルで考えると、人間だけが宇宙の膨張が加速しているように見えているのかもしれない。膨張速度は、宇宙のどこにいるかによって異なってくる。
新しい研究論文の著者たちは、Pantheon+データセットと呼ばれるIa型超新星のうち、最大級のものを調査した。これらの超新星は、宇宙論モデルの検証に使われる信頼性の高い基準である。
研究チームは、標準的なラムダCDMモデル(宇宙の「標準的」モデル)とタイムスケープモデルという2つの主要なモデルを比較した。
近くの明るい超新星を調べる場合、タイムスケープモデルはラムダCDMモデルよりも物事をうまく説明することができる。ただし、これは統計的なものにすぎず、統計分析では「非常に強い」好みが示された。
物質が均等性高く広がるはずのより遠い超新星を調べた場合でも、タイムスケープモデルはラムダCDMモデルよりもわずかにうまく説明できる。
結論は?タイムスケープモデルは、宇宙の「塊と隙間」が宇宙の成長についての解釈の変更方法に焦点を当てるため、宇宙の膨張の真の性質を捉えるのに優れているかもしれない。これは特に近傍宇宙に当てはまる。そこには多くの空隙とフィラメントがあり、それが膨張の見方に影響を与える。
重要な注意点がある。この分析では、特異速度が考慮されていない。特異速度とは、銀河の小さなランダムな動きであり、超新星の測定に影響を与える可能性を持つ。また、明るい超新星は検出しやすいという理由だけでデータに含まれる可能性が高くなるマルムキストバイアスも考慮されていない。
このような潜在的なエラーの素は、結果に悪影響を及ぼし得る。さらに、この研究では最新の DES5yr の超新星データセットを使用しなかった。このデータセットはPantheon+よりも一貫性と均一性が高く、比較について信頼性が高くなると考えられる。
現在、ラムダCDMモデルを支えているのは超新星以外にもあり、最も顕著なのはバリオン音響振動と重力レンズ効果である。今後の研究では、これらをタイムスケープモデルに統合する必要がある。
しかし、この新しい研究では、タイムスケープモデルはラムダCDMに代わる興味深い選択肢を提供する。結論を言えば、宇宙の加速とは、物質の不均一な分布から生まれた幻想であり、大きな宇宙の空隙は密度の高い領域よりも速く膨張しているということである。
これが確認されれば、宇宙論における革命的なパラダイムシフトとなろう。
(2025年1月21日公開)