オーストラリアでは、送電網に太陽光や風力エネルギーで作った電気がますます入り込むようになっている。すると、将来に備えて蓄電する方法が必要になってくる。
揚水発電システムから大型リチウムイオン電池システムまで、電気を貯蔵する方法はいくつか存在するが、フロー電池もその一つである。これは、あまり知られていないが、従来の電池と燃料電池を合わせた方法である。
フロー電池は、電力を最大12時間送電網に送り返すことができる。これは、4‐6時間しか持たないリチウムイオン電池よりもはるかに長い。
1980年代、フロー電池の主要な種類がいくつか発明された。私は発明家の一人だった。フロー電池が商業的に実現されるまで何十年もかかった。しかし、ようやく本格的に普及し始めている。
今年、オーストラリア政府は国内の電池製造を拡大するために国家電池戦略を立ち上げた。これは5億豪ドルの戦略であり、主に電話や自動車へ電力を提供する、なじみのあるリチウムイオン電池を対象としているが、フロー電池も含まれている。
電池はますます重要なものとなってきている。今では、車、家、さらには都市にも電力を供給することができる。輸送手段を電化し、グリーンな送電網を作るために、新しい化学電池の商業化に巨額の資金が投入されている。
現在、オーストラリアの送電網向け電池のほとんどは、リチウムイオンなどの化学物質を使用している。しかし、オーストラリアの送電網が再生可能エネルギーに向かう中、化石燃料を使う発電機の必要性をなくすために、電力の貯蔵期間を長くする必要があるが、これこそがフロー電池にぴったりのタスクなのである。
リチウムイオン電池などの従来の電池は、電極 (通常は金属) に電力を蓄える。
フロー電池は液体電解質に電力を蓄える。電解質溶液は外部タンクに蓄えられ、反応器に送り込まれる。そこの不活性電極部分で化学反応が起こり、エネルギーが生成される。
フロー電池は、タスクの要件に合わせて変えることができる。発電量 (kW) と蓄電量 (kWh) を変更できる。蓄電量を増やしたいならば、タンク内の電解質の量を増やせばよい。
蓄電容量を増やすと、蓄電エネルギーのkWhあたりのコストが大幅に減少する。これは、従来の電池のようにまったく新しい電池一式を追加するのではなく、液体電解質を追加するだけで済むためである。
つまり、8時間以上という長い時間電気を蓄えるならば、現在はフロー電池が最も安価な方法となる。リチウムイオン電池とは異なり、フロー電池は数万サイクル動作し、電解液ははるかに長く、あるいは無制限に持続可能である。欠点の1つは重量である。フロー電池は非常に重く、持ち運びできない。
今日まで最も多くの試験が行われ、商業化されたのは亜鉛臭素電池とバナジウムレドックスフロー電池である。
1980年代半ばのことである。私と同僚はニューサウスウェールズ大学でバナジウムレドックスフロー電池を開発した。バナジウムは珍しい金属である。同じ溶液でもさまざまな酸化状態の中で存在することができる。つまり、他の化学反応のように2つの元素ではなく、1つの元素だけで電池を動作させることができる。これにより相互汚染を回避でき、電解液の寿命が無限になる。
数十年にわたる開発を経て、バナジウムフロー電池は現在、日本、中国、欧州の企業によって商業生産されており、世界中で数gWhの容量が設置されている。
世界最大のバナジウム生産国である中国は、最近、多くの大規模な新しいバナジウムフロー電池プロジェクトを承認した。2024年12月には、175MWの容量と700MWhの蓄電容量を備える世界最大のものが中国の大連で稼働した。
世界最大のバナジウムフロー電池が中国で稼動
Rongke Power, CC BY-NC-ND
オーストラリア初のメガワット規模のバナジウムフロー電池は、2023年に南オーストラリアに設置された。このプロジェクトでは、太陽光発電所からの電力を貯蔵するために送電網の蓄電装置を使用する。
商業化における最大の課題はバナジウムの確保である。バナジウムの価格と供給は鉄鋼業界との競合需要により大きく変動する。
この状態は変わるかもしれない。政府は重要な鉱物に投資し、複数の新しいバナジウム鉱山と処理工場が急速に建設されている。オーストラリアは将来、世界の主要なバナジウム生産国になる可能性がある。2023年、タウンズビルにオーストラリア初のバナジウム電解液生産工場が建設された。
フロー電池は、さまざまな化学物質から作ることができる。他に有望な化学物質は、鉄-鉄と臭化亜鉛である。
鉄フロー電池は、2011年から米国で開発されている。セルは鉄、塩、水を使用するため、バナジウムは必要ない。
オーストラリアでは、クイーンズランド州に拠点を置くESI Asia Pacific社が、メアリーバラの新しい工場で独自の鉄フロー電池を開発する計画をしている。この工場は2026年に建設が完了することになっている。
鉄は豊富で安価な物質だが、鉄フロー電池は鉄の腐食を減らすために高純度の塩化鉄を使う。これにより、電解質のコストが予想よりも大幅に高価になることが示唆される。今までのところ、現場実証のデータは限られたものしかない。
亜鉛臭素電池は、金属である亜鉛と、塩水から抽出された元素である臭素の溶液を使用する。この化学的性質により、各セルは他のフロー電池よりも高い電気出力を持つが、課題もある。それは、セル内の樹状突起の成長を止める方法を見つけることである。樹状突起は、エネルギー産生を妨げたり、短絡を引き起こしたりしかねない。
オーストラリアの電池産業の拡大は時間と資金を必要とする。しかし、電力部門と輸送部門全体については、今後数年間で電池の需要が世界的に急増すると考えられる。
道路輸送の電化に取り組む中で、電力需要の増加と、現在電気自動車に広く使用されているリチウムイオン電池の需要が見込まれる。
リチウムの主要生産国であるオーストラリアは、国内使用や輸出用のリチウム電池も製造できる。世界で競争するには、自動化を取り入れる必要がある。
フロー電池はリチウム電池と異なる化学的性質を持つが、共通するところも数多くあり、オーストラリアで製造すればエネルギーの自給率を高めることができる。長い間、フロー電池の製造には手間暇と費用のかかる組立作業を必要としていた。しかし、今では組立ラインを自動化することが可能であり、コストを削減してオーストラリア製の電池の競争力を高めることができる。これは、同僚と私が取り組んでいる課題である。
10年以内に、オーストラリアは世界的に競争力のある電池生産国となり、重要な鉱物の輸出国になるであろう。それにより、国内と世界でのクリーンエネルギーへの移行が促進される。
(2025年1月23日公開)