今月初めのオーストラリア総選挙で労働党が圧勝した後、オーストラリアの生産性低迷が大きな話題となっている。
事実、アンソニー・アルバニージー首相とジム・チャルマーズ財務相は先週、政権2期目の最優先事項は生産性向上であると明言した。労働時間当たりの生産性は重要な指標であり、毎年少しずつ上昇しているものの、成長はこの10年間で鈍化しつつある。
生産性向上の一環として、連邦政府は生産性委員会に生産性向上のための新たな戦略を策定するよう指示した。7月か8月には、5つの主要な柱にわたって実行可能なアイデアを盛り込んだ報告書案が提出される予定だ。
しかしながら、生産性低迷の解決策の一つである科学研究への支援強化は、今のところあまり注目されていない。
科学は様々な方法で国家経済の生産性向上に貢献できる。
たとえば、科学的なイノベーションや創造性は、オーストラリア市場と国際市場の両方において、高い価値を持つ製品やサービスを生み出すことができる。そして、研究が実世界の経済的利益につながれば、科学、技術、工学、数学 (STEM) スキルとビジネススキルを併せ持つ人材を育成することができる。
これは、技術革新を促進し、エビデンスに基づく意思決定を支援するため、重要である。また、技術変化に直面したときに複雑な問題を解決できる力を人々に与え、最終的には生産性向上を促進する。
フューチャー・メイド・イン・オーストラリアの計画が官民連携の強化と弾力性の高い経済という目標を実現するためには、オーストラリアの科学ソリューションも最前線に立つ必要がある。
第四次産業革命とも呼ばれるインダストリー4.0とは、製造業の技術と工程の急速なデジタル化と自動化を指す。デジタル技術がもたらす莫大な可能性を実現するためだけでなく、それを持続可能な形で活用するためにも科学は不可欠である。
たとえば、人工知能は膨大なエネルギーと資源コストが必要だが、科学はその深刻な懸念に対処するのに役立つ。
政府は、科学研究とイノベーションが生産性向上に果たす役割を認識しているようである。
たとえば、政府は、2年前に前連立政権によって発表された「オーストラリア経済アクセラレーター」を2024年に本格的に開始した。この制度は、オーストラリアの大学研究のうち商業化の可能性のあるものを支援することで、生産性を促進し、向上させることを目的としている。
オーストラリアの新たな国家科学研究優先事項もまた、オーストラリアの複雑なエネルギーと環境の課題に対処する上で、科学が果たす重要な役割を浮き彫りにしている。
しかし、科学の世界には依然として、オーストラリアの生産性向上を制限する根本的な問題がいくつか存在している。
問題の一つは、研究開発 (R&D) 資金に関連している。
オーストラリアの国内総生産に占めるR&D投資の割合は、長年にわたり減少を続けている。2008-2009年度には2.25%だったものが、2021-2022年度には1.68%にまで低下した。その一方、他の先進国はR&D支出を増加させており、格差の拡大につながっている。OECD平均は2.7%である。
複数の主要機関が、この減少はオーストラリアの長期的な生産性に対する脅威であると指摘している。なぜなら、科学分野におけるR&D支出は、生産性向上の二大要素であるイノベーションと創造性を育むからである。
別の問題として、基礎科学へのサポートが減少したことが挙げられる。基礎科学は、特定の応用を意図しているわけではないが、長期的には生産性向上と同様、重要である。
ペニシリンの発見、あるいはDNAの二重らせん構造の発見について考えていただきたい。これらは、科学界における画期的出来事のごく一部である。当初は応用について考えられてはいなかったが、最終的には変革をもたらすことが証明された。
このような科学研究には、支援を継続的に行い、知識を蓄積させることが必要である。ごく最近、我々は、その結果と影響を実際に目の当たりにしてきた。コロナ禍中にワクチンが開発される以前から、科学者たちは数十年にわたってmRNAワクチンの研究に取り組んできた。
オーストラリアは岐路に立っている。オーストラリア経済アクセラレーターのような施策を通じて短期的に資金を増やしても、それは一時しのぎの解決策に過ぎない。この問題に適切に取り組むには、十分考えられた改革と、今後数十年にわたる国の繁栄を確かなものにする長期的な戦略計画が必要である。
政府はR&D部門を全面的に見直しているため、ある程度の希望はある。この見直しは、R&Dを国家の優先事項に合わせ、既存の投資の価値を最大化し、官民パートナーシップを活用し、学術界と産業界の連携を強化することを目的としている。
この見直しは、多方面にわたる関係者が関わり、長期的な変革をもたらすことができるよう設計されている。
学術界と産業界が生産性向上に取り組めば、大きな利益をもたらすことであろう。オーストラリアの産業と経済の自立性を築くことができる。また、科学とR&D改革への長期的な投資を行い、生産性とその向上方法について、我々の視野を広げることもできる。
強力なR&D改革を実施し、あらゆる分野にわたって生産性を推進させることで、オーストラリアは持続的な成長と国際的な影響力を得ることができる。
(2025年6月2日公開)