【The Conversation】 ADHDの原因は?—わかっていること・わかっていないこと・疑われていること

神経発達障害とは、発達の初期から脳に影響を及ぼす多様な疾患群である。注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症、そして失読症などの学習障害が含まれる。

これらの疾患は通常、時間の経過とともに顕著になってくる。これは、子どもが各年齢で習得すると考えられている能力の遅れが目立ってくるためである。

ADHDは最も一般的な神経発達障害であり、子どもの約8~10%、成人の約2~5%に見られる。

ADHDは仕事をこなす効率性(注意散漫など)や行動(物をなくす、集中力が低いなど)に影響を与える。

ADHDは、学習障害や友人関係の維持など、あらゆる機能に影響を与え得る。診断されなければ、これらの問題は長引く可能性があり、不安、うつ病、自尊心の低下につながっていく。

診断方法は?

ADHDを引き起こす特定の遺伝子異常や脳の異常はなく、信頼性の高いADHD診断用の単独検査もない。

正式な診断は、子供が不注意の診断基準のうち6つ以上(成人の場合は5つ以上)、又は多動性・衝動性の診断基準のうち6つ以上(成人の場合は5つ以上)を満たしているかどうかによって決まる。これらの基準は、6か月以上継続していることが必要である。

診断基準には以下のものが含まれる:

  • 集中力の低下(例:聞き取り困難、細部への注意力の低下、仕事を最後までやり遂げない)
  • 多動性(例:そわそわする動作、落ち着きがなく走り回る、常におしゃべりする)
  • 衝動性(例:会話やゲームを中断する、順番を待てない)

ADHD患者全員が多動性を示すわけではない。不注意型ADHDの場合、不注意が主な困難となっている。たとえば、特に興味のない日常的な仕事について集中力を維持することは難しい。

多動性・衝動性と不注意の両方の基準を満たす場合は、混合型ADHDとなる。

診断はどの程度信頼できるのか?

基準はADHD専門のものではなく、これが問題の一つになっている。たとえば、集中力の低下はうつ病の症状でもある。

だからこそ、症状チェックリストに印をつけるだけでは不十分なのである。正式な診断基準は、症状は日常生活に支障をきたすものでなければならないことを強調している。

重要な問題は、「ADHDの症状が日常生活に支障をきたし、あるいはその人の成長を妨げているのか?」ということである。

これが意味するものは、個人の日々の活動によって異なっている。

例えば、学生時代は集中力がなかった人が、後になって、写真家などといったクリエイティブな仕事や、ジャーナリストのように締め切り厳守で集中力が必要な仕事で優れた能力を発揮することがある。

また、人生のある段階でのみ、診断基準を完全に満たすことがある。軽度ADHDは基準の一部を満たしているものの、診断には至らない状態であるが、それでも大きな問題を引き起こすことがある。

男女差

4歳から11歳までの男子は、女子に比べてADHDと診断される可能性が最大4倍高い。

これは、診断基準が特に多動性の男子に当てはまりやすいことが一因と考えられる。しかし、女子、特に多動性や行動妨害がない、あるいは集中力のなさを隠そうとする女子には、あまり当てはまらない。

女子や女性は診断が遅れる傾向があり、うつ病などの「内発的症状」を示すことが多い。しかし、女子の過小診断率は過去40年間で改善している。

男女差は年齢とともに少なくなっていき、ADHDと診断された若年成人のうち女性の割合は、ほぼ半数(38%)である。

大人が初めてADHDの症状に気づくのは、大きな生活の変化に対応するときかもしれない
Maria Svetlychnaja/Shutterstock

遺伝はどうか?

遺伝要素も強く存在する。ADHDの遺伝率は約70~80%である。これは、ADHDにおける個人差が、環境要因ではなく遺伝要因に起因する程度を表している。

ADHDの人と血縁関係が近いほど、つまり共通遺伝子が多いほど、ADHDになる可能性が高くなる。

しかし、遺伝学は複雑である。ADHDの原因となる遺伝子や遺伝子群を見つけるのは、それほど易しいことではない。

例えば、初期の研究では、ADHDは神経伝達(脳が化学信号を送る仕組み)を標的とする6つの遺伝子と関係しているとしていた。しかし、それぞれの遺伝子の影響は小さいものであった。

ADHDは現在、数千もの共通遺伝子変異が関与する多遺伝子疾患であると理解されている。

これらの遺伝子は、ADHDの全体的な発現に対し、それぞれがごくわずかな影響を与えると考えられる。これらの遺伝子はありふれたものであるため、ADHDの特徴はある集団の全体に分布しており、ADHDの者とそうでない者を明確に区別することはできない。

家族内では、遺伝子と環境(家庭)が共有されており、相互作用を作り出すため、これらを別々に研究することは困難である。

環境はADHDに影響を与えるか?

ADHDの子供がいる家庭では、両親は子育てスタイルを子供の行動に合わせることが多いので、子供は家族の助けにより日常生活にうまく対処できる。だが、そのためにADHDが隠れてしまい、診断が遅れることがある。

しかし、両親のどちらか、あるいは両方がADHDの場合、子育てスタイルに影響を及ぼす可能性がある。子どもの行動が、遺伝によるADHDの影響を受けたせいなのか、それとも家庭環境や子育てによる影響のせいなのかを判断するのは難しい。

また、就学時の年齢が比較的若い子どもほど、ADHDの治療率が高いという研究結果もある。このことから、ADHDと診断される時期には環境が関係しているが、必ずしもその原因ではないことがわかる。

ADHDに関する詳細情報や支援団体については、ADHD財団またはADHDオーストラリアのウェブサイトをご覧いただきたい。

(2025年6月13日公開)

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