オーストラリアのディーキン大学(Deakin University)は、同大学のレン・ グリーン(Wren Greene)博士の研究成果に基づくがん診断用センサーが、5年以内に実用化される見込みであると発表した。世界初のがん診断用POC(Point-Of-Care)センサーとして、がんの早期診断や効果的なモニタリングを可能にし、がん患者の長期予後につながることが期待されている。発表は6月16日付。
このセンサーは、指先穿刺で採取した血液を用いてがん細胞中の抗原を検出し、わずか数秒でがんの進行状態と転移能(metastatic potential)を測定する。高精度の理由は、グリーン博士らが「奇跡のタンパク質」と呼ぶ「ラブリシン」をコーティングに使用したことにある。
ラブリシンは人間の関節軟骨を覆う潤滑剤として機能し、細胞とタンパク質の接着を防ぐ。これを電極のコーティングに用いることにより、電極表面への血中タンパク質の接着を防ぎ、電気化学的検出への干渉を抑えることができる。
「接着を防ぐために使用される他の生化学的コーティング材と異なり、ラブリシンは電気的なプロセスにほぼ影響しないため、未加工の体液検体に対するこれまでにない感度を実現できる」とグリーン博士は語る。
現在のがん検査は、高額なため年に1~2回程度しか実施できないものがある中、このバイオセンサーを使えば高頻度に検査を実施し、がんをより早期に診断できる可能性がある。再発がんに加え、初回のがんの診断ツールとしての使用を視野に入れているという。
ディーキン大学のパートナーであるバイオセンシング技術の世界的企業であるユニバーサルバイオセンサーズ(Universal Biosensors)は、米国のラブリスバイオファーマ(Lubris BioPharma)と専用実施権(exclusive license)および供給契約を締結し、今後5年以内にこのセンサーの実用化を目指している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部