シドニー大学(University of Sydney)は3月16日、同大学の研究者らが、絶滅のリスクが高いアラビアオリックス(Arabian Oryx)のDNAを世界で初めて解析し、保護活動に役立つ情報を得たと発表した。この研究の成果は英国王立協会(Royal Society)のオープンアクセス誌 Royal Society Open Science に掲載されている。
アラビアオリックスはその特徴的な姿や強さから中東の湾岸諸国の象徴的な動物となっている。乱獲により減少し、野生の個体は1972年代に絶滅したが、米国のフェニックス動物園 (Phoenix Zoo)等により保護下で繁殖し、数十年後に再び野生に戻された。現在では約1,200頭のアラビアオリックスが野生で生息する。
中東のオマーンの野生生物保護区で生息するアラビアオリックス (提供:シドニー大学)
国際自然保護連合(IUCN)絶滅危惧種レッドリスト(Red List of Threatened Specie)によると野生のアラビアオリックスは今も絶滅の高いリスクに晒されているが、遺伝的多様性を考慮した繁殖戦略はこれまで考案されていなかった。
ジャイム・ゴンゴラ(Jaime Gongora)准教授らは、DNA解析に基づく繁殖戦略を提案するため、オマーンの野生生物保護区「Al-Wusta Wildlife Reserve」に生息するアラビアオリックスの遺伝子サンプルと、フェニックス動物園から入手した過去のサンプルを用いて、母性遺伝のミトコンドリアDNAと両親から遺伝する一塩基多型を調べた。
その結果、アラビアオリックスの遺伝子プールは、集団が変化する環境に対応でき、健康を保つことができる程度の多様性を持つことがわかった。さらに、現在生息する個体のサンプルは、過去の個体のサンプルよりも遺伝子的多様性が高いことがわかり、「ランダムな交配に基づく保護策がまずまず成功したのではないか」とゴンゴラ准教授は説明する。
一方で改善の余地として、3つの祖先グループの遺伝子が保護区に現在生息する集団に均等に分布していないことがわかった。これに基づき、チームは、メスが他の遺伝子系統のオスと交配できるようにする「標的を定めた繁殖(targeted breeding)」戦略を提案している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部