2022年08月
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大気質・土地・海洋・海岸・生物多様性・気象の最新状況分析―オーストラリア、環境報告書公表

オーストラリア政府は7月19日、2021年環境状況 (SOE) 報告書を発表した。この報告書は同国の環境状況に関する包括的な評価であり、5年ごとに作成している。報告書は独立した、証拠に基づく評価であり、1999年環境保護・生物多様性保全法で義務づけられているものである。

同報告書の作成にあたり、同国の連邦科学産業研究機構(CSIRO)の科学者たちは、報告書の6つの章(大気質、土地、海洋、海岸、生物多様性、極端気象)の共同主執筆者として多大な貢献をした。公開されたデータセット、モデル、およびツールが報告書の包括的な調査結果全体で使用されている。

同報告書は、気候は急速に変化しており、持続不可能な開発と資源の使用により、環境に関する見通しが一般的に悪化していると述べている。これは、気候変動、生息地喪失、侵入種、汚染、および資源採取からの圧力が増大した結果である。

オーストラリアで生息するハチクイ(rainbow bee-eater)

砂漠に咲く植物

荒廃する自然
(提供:いずれもCSIRO)

また、先住民族の著者、先住民族主導のテーマ全体、および先住民族特有のケーススタディが報告書に含まれた。これは、この報告書の非常に重要な変化であり、CSIRO はこのアプローチの支援に中心的な役割を果たしてきた。

CSIRO の最高責任者であるラリー・マーシャル (Larry Marshall) 博士は、次のように述べる。

「我々が住むオーストラリアの環境は独特かつ貴重であり、すべてのオーストラリア人は自国の環境を愛している。我々の景観、生物多様性、空気、海岸、海はかつてないほどの圧力に直面しているため、環境の劣化の流れと将来の劣化を変えるためには科学、調査、イノベーションが不可欠である。

オーストラリア全土の科学者たちが綿密に収集し、評価した証拠を利用して、気候変動、汚染、資源採取、生息地喪失、侵入種による圧力の増大により、重大な課題に直面しているオーストラリアの環境に関するタイミングよいスナップショットを作成した。

環境の悪化は我々全員に影響を与えるため、すべてのオーストラリア人にこの報告書を熟読していただきたい。協力して行動を起こすことで、我々の環境を癒すことができる。

CSIRO が提供する科学は、証拠の基盤を確立する上で重要な最先端の科学ツール、システム、モデル、およびデータセットを使用しており、この報告書の作成に大いに役に立った。この厳密な分析は、保護と修復において競合する用途のバランスを取るなど、将来の環境を管理するよい方法を決定するために欠かせないものとなろう。

私は、我々全員が住んでいる土地の伝統的所有者に敬意を表する。彼らは何千年もの間、我々の環境を守ってきてくれた。彼らの声は報告書の中に強く反映され、オーストラリアを癒すには健康な国土とのつながりが重要であることを示している」

極端気象が環境・生態系に影響

「極端気象」の章の共同主執筆者でCSIRO海洋大気のディレクターであるダン・メトカルフェ (Dan Metcalfe) 博士は次のように述べる。

「この報告書は、異常気象に関連する事象の強度、頻度、および分布が変化していることを示している。生息地の断片化、土地管理の慣行、侵入種が極端気象の影響を悪化させ、極端気象が我々の環境、生態系、社会、そして我々の幸福に影響を与えていることは明らかである。

急性気候の影響は建造環境と自然環境の全体で広く感じられ、生物多様性、生産システム、産業、コミュニティに影響を与えることから、極端気象と気候変動に関する研究は報告書全体で広く統合されて記載されている。

重点的に投資を行うべき箇所を決定するために、ハザード、リスク、脆弱性、および影響の間の相互作用についての理解をさらに深める必要がある」

大気質を改善する最も効果的な方法

「大気質」の章の共同主執筆者であるCSIRO主任研究員のキャサリン・エマーソン (Kathryn Emmerson) 博士は、次のように述べる。

「我々が呼吸する空気の質は、すべてのオーストラリア人の健康に影響を与える。比較的低レベルの大気汚染であっても健康は影響を受けるため、オーストラリアには安全なレベルの大気が存在しないのかもしれない。

山火事はひとたび発生すれば数日間、時には数週間にわたって人間の健康に有害な煙を発生させることがあるため、オーストラリアの大気質にとって最大の脅威である。薪ストーブは都市の大気質を低下させる主な原因であり、その使用を禁止すれば、特に冬の大気質が改善される。

大気質を改善する最も効果的な方法は、汚染源に的を絞り、低レベルの大気質への曝露を最小限に抑えることである。

低コストの大気質センサーの開発、検査、展開を継続的に行えば既存の監視ネットワークを補完することができる。場所を絞ったリアルタイムの大気質情報収集に効果的である。」

土地と資源をめぐる競争が激化

「土地」の章を共同主執筆したCSIRO主任研究員のクリステン・ウイリアムス (Kristen Williams) 博士は、次のように述べる。

「オーストラリアの土地資源をめぐる激しい競争により、土地の自然資本である在来植生、土壌、生物多様性は減り、状況は悪化し続けている。これは、オーストラリアの土地と土壌の状態が全体的に悪いことを意味する。

オーストラリアの多くの地域では荒廃がかなり進み、原生植物が広範囲にわたって伐採されている。オーストラリア固有の生物多様性を支える原生植生の能力は広範囲にわたって低下しているが、生活環境特性の低下、気候変動、外来種の蔓延によってさらに深刻なものとなっている。生態系が完全に回復するには、何十年もかかることがある。

オーストラリアの景観は、炭素貯蔵で重要な役割を果たしている。炭素は地上では植生に、地下では土壌に隔離されている。過去には多く行われていた原生林の伐採は、全国的に見るとわずかに減少しているが、再生林の再伐採は依然として多く行われている。健全な土壌とうまく働く生態系は、炭素を隔離し、貯蔵する重要な場を作ってくれる。

自然保護のために管理されている土地は比較的安定した状態を見せている。増加分の土地のほとんどは、民間部門と先住民族の不動産である。しかし、気候変動と侵入種の管理は依然として重要であり、課題は増え続けている。

景観の回復に新たに焦点を当て、可能であれば先住民の土地管理手法をさらに意識し、強化すれば、国土を癒し、幅広い利益を得る新しい方法を見つけることができる」

海洋環境の適切な管理が課題

CSIROのチームリーダーであり、「海洋」の章を共同主執筆したローワン・トレビルコ (Rowan Trebilco) 博士は、次のように述べる。

「オーストラリアの海域は全体的に良好な状態を保っている。とはいえ、一部の地域は急速に悪化している。

この報告書は、オーストラリアの海洋環境では、気候変動と汚染から生じる圧力が適切に管理されていないことを示している。オーストラリアの海洋環境を効果的に管理するには、統合された管理手法を幅広く取り入れる必要がある。

サンゴ礁のような近海の環境は、気候変動と蓄積した圧力により、劣悪な状態にあり、悪化の一途をたどっている。

気候変動のために、海洋の温暖化と酸性化は進んでいる。海洋熱波は、海洋生態系の質にも影響を与える。オーストラリアの海域では、過去 5 年間に強い海洋熱波がいくつか発生し、海洋環境の全体的な悪化傾向の一因となっている。

圧力や構成要素だけを見ても、海洋環境のごく一部が分かるに過ぎない。報告書は、統合的、包括的、参加可能な海洋管理ができる新しい国家システムが必要であることを述べる。これは、統合され、適応可能で長期的な国の海洋環境モニタリングによって可能になるが、先住民族による強い協力が必要である」

種と生態系への影響が悪化

「生物多様性」の章を共同主執したCSIRO主任研究員のヘレン・マーフィー (Helen Murphy) 博士は、次のように述べる。

「生物多様性は、回復力のある自然環境ならびに人類の生存、幸福、および経済的繁栄に欠かせない。また、オーストラリア先住民の文化とオーストラリアの国家的アイデンティティーに不可欠である。

オーストラリアの生物多様性が直面している圧力は、2016 年環状況態報告書以来、改善されておらず、種と生態系に全体的に悪い影響を及ぼす。

生息地の喪失および劣化、ならびに侵入種は、オーストラリアのほぼすべての地域で生物多様性に対し永続的に働くものであり、時には不可逆的な影響をもたらす。

現在の管理手法と投資が大幅に改善されない限り、圧力を適切に管理することができないため、種の絶滅と生態系の悪化は続く」

海面上昇で海岸に深刻な影響

「海洋」の章と「海岸」の章を共同主執筆し、CSIRO の研究者で先住民であるミブ・フィッシャー (Mibu Fischer) 氏は、次のように述べる。

「オーストラリアの海岸には複数の圧力がある。海面上昇は深刻な影響を及ぼし、気候変動による影響は人口や産業による影響を急速に上回る。

オーストラリアの海岸に管理のために先住民族が率先して行えることは限られている。力の不均衡を改善し、国土を管理する際の関係と協力を高めるためには、さらに投資しなければならない」

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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